Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.040 竹内美奈子さん

2016/07/06 (水)
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竹内美奈子さん

株式会社TM Future
代表取締役

「人」の能力を引き出し、組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する株式会社TM Futureを創業した竹内さん。企業、大学、パブリック、非営利法人を問わず、人と組織の問題、リーダー育成、人の能力を引き出し成長を支援する様々な活動をされています。また、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)の理事を務めたり、母校の立命館大学では講義を受け持つ他、東京校友会の会長を務めるなど多方面で活躍されています。今回は、ご自身のキャリアについてお話しいただきました。

「5歳ふけたね」と言われた過酷なリーダーの仕事

私は、大学卒業後、NECに入社し、技術系社員向けの人財開発業務に10年携わりました。ただ、もともと「手に職をつけたい」との思いがあったので、「システムエンジニア(SE)になりたい」と現場への異動希望を出しました。3年間しつこく言い続けたところ希望が叶い、数十名のSEを束ねる「プロジェクトマネージャー(プロマネ)」の職に就きました。ただ、リーダーとはいえ開発経験はほとんどありません。部下たちの議論を聞いてもよくわからない。「どちらの技術を選ぶべきか?」といった判断が自分でできない。当初はつらい思いをしました。

ただ、わからないことがあれば、「なぜなぜ攻撃」で部下たちに聞きまくり、教えてもらうようにしました。また、「自分はSEたちが得意でないことを中心にやろう」と決め、ヒトやおカネの管理を積極的にやるようにしました。あるいは対顧客では、難しい技術をわかりやすく伝える。そんなことをしていく内に、次第にリーダーとしての立ち位置が決まり、自分の持ち味を活かしたリーダーシップを発揮できるようになったように思います。

竹内さん1

いわゆる2000年問題が注目された年のあるプロジェクトでのこと。前任のリーダーが問題を一人で抱え込み、にっちもさっちもいかなくなっていたところ、プロマネの仕事を引き継ぎました。このままプロジェクトを進めれば、納期は守れるけど、「カスタマイズのお化け」ができる。それを避けるにはプロジェクトを一からやり直す。ただ、こちらは費用が余計にかかる。顧客にお詫びと共に状況を説明し、「納期と費用のどちらをとりますか?」と聞いたところ、「バカモノ!どっちもだ!」と怒鳴られました。

通常は、開発をした翌日にテストをしていました。ただ、これでは納期を守れない。苦肉の策として、昼に開発、夜にテストをする24時間体制を敷きました。2日かかることを1日で済ますしかなかったのです。プロマネなので、24時間対応しないといけない。納期までの半年間、1日しか休みをとりませんでした。その間、運転免許は失効。プロジェクトが終わった後、上司に「5歳ふけたね」と言われました。顧客から怒られ続けた過酷な日々でしたが、お金の工面とメンバーの頑張りでなんとかやり遂げることができました。

竹内さん2

このプロジェクトでは、前任のリーダーがサブリーダーとして私の下で関わっていました。自分でやらないと気が済まないタイプで、問題を一人で丸抱えしていました。それが問題を大きくしたので、「全部テーブルにのせて問題をシェアしようよ。何があっても怒らないから」と安心安全な場をつくるようにしました。すると、問題点を出してくれるようになり、早めに手が打てるようになったことから、その後、大きな問題は起こりにくくなりました。

また、顧客から怒られるときは自分が前に立つようにしました。怒られるのは誰だって嫌なもの。だからと言って、逃げるのはもっと嫌なものです。問題を起こしても、きちんと説明をして謝れば意外に済んでしまうことも、この案件を通して気づきました。余談ですが、サービスインの日に、怒られ続けてきた顧客がこちらに向かって手を挙げてきました。「また怒られるのかな?」と思いましたが、どうも先方は「よくやってくれた!」とハイタッチをしたかったそうです。それに気付かなかったら、また怒られました。

竹内さん3

リーダーに必要なことは人に対する洞察力

人財開発を10年経験した後、現場に出て良かったと思っています。人財開発部門では研修などの「仕組み」を通して間接的に育成をしていきます。それは大事なことです。でも、現場で直接部下を育てる体験をしたことで、現場で必要な人事のあり方がわかりました。「いかに生身の人間の持ち味をみつけ、発揮させていくか?」ということです。持ち味とは、好き、得意、やりたいことの三つの要素に分けられます。その人の持ち味を活かすには、「個」に向き合い、話を聞き、その人のことを深く知る必要があります。その意味では、「人に対する洞察力」を磨くことがリーダーにとって大切なことだと思っています。

また、「相手の立場に対する想像力」を働かせる能力も必要と感じています。とかく自分の立場で物事を考えがちですが、それでは対立を招いてしまいます。「相手はどう考えているのか?」に思いを馳せることで、相手への思いやりの気持ちが持て、ウィンウィンの関係を築くことができる。そういったことを現場でのリーダー経験を通して学ぶことができました。

竹内さん4

プロマネを10年務めた後、NECの物差ししか知らないということに違和感をもち始めました。それに、中間管理職ではなく、もっと自分のオーナーシップ(裁量)が効く職に就きたい。それには小さな会社で働くのが良い。それに、また人財系の仕事に戻りたい。そんな思いもあり、エグゼクティブ・サーチ(ヘッドハンティング)の会社であるスタントンチェイスインターナショナルに入社しました。当初は、技術者の採用を担当し、その後、マネジメントレベルの採用にも関わることになりました。

ただ、採用の仕事をしている内に、「採用だけではダメ。採用した人をしっかり定着させ、育成まで関わらないと組織の問題は解決できない」と考えるようになりました。企業のトップの方には、いい人を採用すれば、それで組織や人事の問題は解決できると考える方が意外に多いんです。「残念ながら、それだけでは不十分ですよ」と話しても、簡単には伝わりませんでした。そんな中、大阪大学から「博士課程のリーダー育成プログラムに関するコンサルティング」の依頼がありました。それから、採用だけでなく、人財開発のコンサルティングをいくつか担当するようになりました。

ただ、社内でもほかに採用以外のコンサルティングに興味を持つ人がいなかったんです。自分も代表取締役(副社長)になっていたので、かなり会社にコミットしていましたが、採用だけでなく人財開発の仕事にも取り組みたい。それに、自分の持ち味を活かして活躍できずにいる人たちが多くいる。そういう人たちをサポートしていくのが自分の使命との思いもあり、10年勤めた会社から独立して、株式会社TM Futureを立ち上げました。当社では、人と組織の問題、リーダー育成、人の能力を引き出し成長を支援する、コンサルティング、プロジェクト支援、メンタリング活動などを行っています。

TMFuture

スポーツを通して世の中をより良くしていきたい

年齢を重ねる内に、「会社以外のことで世の中に貢献していきたい。社会に恩返しをしないといけない」と考えるようになりました。母校の立命館大学では、キャリア講座の授業を受け持ち、学生相手に講義をしています。あと、同窓会組織である東京校友会の会長も務めさせていただいています。これからを担う若い方、そして女性の力を活かしながら組織を活性化することをミッションとしています。

立命館大学東京校友会

また、2015年から、ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)の理事を務めています。日本のバスケ界は、一時、国際的な制裁を受けるなど危機的な状態にありました。それを川淵三郎さんや現在の大河チェアマンが中心になって組織を立て直し、野球、サッカーに次ぐ第三のプロスポーツに育てるためBリーグを発足させました。私は、これまでのキャリアから、組織づくりや人財育成などでBリーグの成功に向け貢献していきたいと考えています。ちなみに、Bリーグは、2016年9月22日に開幕します。是非、アリーナまで足を運んで、選手を応援していただけると嬉しいです。

bリーグ

今後は、スポーツ選手の地位やプレゼンスの向上にも取り組みたいと思っています。Bリーグから1億円プレイヤーも出したいし、選手としてだけでなく人として社会からリスペクトされる存在になれるようなサポートをしていきたい。スポーツは多くの人に感動を与えられる社会的価値の高い、いわば公器です。それに関わる人たちは、プロとしての自覚を持ち、社会的な役割を果たすことが求められています。選手やスタッフ向けに、「自分たちはどんな存在であるべきか?」を考える研修などをリーグで開発していますが、その実施もサポートしていきます。Bリーグは、スポーツを通して、地域創生や社会的課題の解決に取り組むことも積極的に行う予定です。

私の家族はスポーツ一家なんです。両親や兄はスポーツ万能で、なぜか私だけスポーツ音痴でした。それでも母親から、「スポーツをやってみたら」と言われ、バレーボールを始めました。また、母親が点訳者だったので、自宅に盲人の方が出入りするなど障害者の方々と接する機会が多くありました。そんなこともあり、あるとき、車椅子バスケットボールを体験してみました。そのとき、「これは健常者と障害者が同じ感覚でできる」ということに気づきました。それに足が遅い人でも車椅子に乗ると足の速い人と同じくらいのスピードが出る。「これがダイバーシティの感覚なんだ」と実感しました。

こっちとあっちの世界がない。どんな人でも同じ条件で一緒にできる。多様な人がいても枠を超えて混ざり合う。相手の立場に立ち、実際にやってみて、その感覚を知ることで、思いやりの心を持つことができる。こういう気持ちを多くの人に知ってもらいたいと思っています。その意味では、車椅子バスケは障害者だけのスポーツでなく、みんなが参加するスポーツにしていけたらという夢もあります。スポーツを通して、もっと人が優しくなる、ギスギスしない世の中になる。そう信じて、Bリーグの仕事にも取り組んでいます。

竹内さん5

 

プロフィール

大学卒業後、NECで10年間人財育成に従事、その後SE職に転換しプロジェクトマネージャーとしてさらに10年システム構築の統括や新規サービス立上げを行う。2003年よりグローバルエグゼクティブ・サーチ会社パートナー、2007年同社にて代表取締役副社長就任。2013年人の能力を引き出し組織力を向上させる「タレントマネジメント」を支援する(株)TM Futureを設立し、代表取締役に就任。組織改革と人財育成、リーダー育成、女性活躍推進やダイバーシティ推進等、人と組織に関わるコンサルティングや、プロジェクト支援、ファシリテーションやインタビューによるメンタリング等の活動を行っている。2015年よりジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(Bリーグ)理事。

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