株式会社IZREEL
代表取締役 / デザイナー
メンズのファッションブランド「IZREEL(イズリール)」を展開する株式会社IZREELを創業した高倉さん。セレクトショップへの卸売りから開始し、ミラノやフィレンツェの展示会への出展、メンズ・ブライダル用タキシードのレンタル、専属デザイナーかつスタイリストとして個人のブランディングをサポートする会員制サービスなど次々に新しい取り組みをされながら事業を拡大させています。今回は、ご自身のキャリア、会社やブランドの展開についてお話しいただきました。
自分のブランドを立ち上げたいと起業する
私は、大学では数学を専攻していましたが、服が好きだったこともあり、卒業後はアパレル会社に就職しました。営業を5年、生産管理を3年、マーチャンダイジングを3年経験。服を企画して、生産して、売るという一連の工程すべてに携わりました。ただ、働いている内に、「自分が着たいような服をデザインしてみたい!」「自分のブランドを立ち上げたい!」との思いが次第に強くなっていきました。
サラリーマンは自分の気持ちを押し殺して、会社の方針に従って、「これも仕事だから」と割り切ってしまえば意外と楽しいもの。でも、割り切れませんでした。もともと、自分のやりたいことをやってみないと気が済まないタイプなんです。そこで、34歳のとき独立し、自分でブランドを立ち上げて、株式会社IZREEL(イズリール)を設立しました。「IZREEL」 というブランド名は、「is real(イズ リアル)」からの造語で、モノづくりにおける本質の追及を意味します。
独立後は、すべてを断ち切ってのゼロからのスタートだったので、思った通りにいかないことも多く、苦労もしました。でも、悪いことばかりでなく、当初、考えていたよりも良かったこともありました。例えば、独立して1年経った頃から、イタリアのフィレンツェやミラノの展示会に出展しました。国内でも、まだブランドがさほど認知されていないときです。でも、出展すると、海外のお客さんがよく買ってくれたんです。それ以降、5年続けて出展することになりました。
創業2年目に国内で神宮前に直営店をオープンし、3年目に2店舗目を開設。その後も他社との協業により出店数を増やしていきました。当時は、服や会社のブランディングだけでなく、ヒトのマネジメントから資金調達まで一人でやっていました。店が少ないときは良かったのですが、店舗が増えると次第に手一杯になり、いろいろな面で問題が出てきました。例えば、在庫を抱えると、資金調達に取られる時間が増えていく。そればっかりを考えると本業に支障も出てくる。「在庫ビジネスでは回らない。仕入れはもうやめよう」と考えるようになりました。
また、セレクトショップへの服の卸売りが減ってきていたり、そもそもライバルが多く競争が激しい。「独自のビジネススタイルをつくらないとダメだ」とも思いました。そこで、拡大路線に見切りをつけ、店を閉鎖し、社員数も減らし、1店だけに絞ることにしました。また、仕入れもやめ、ブランドもIZREELだけにして、自分でつくって売ることにしました。それと並行して、他社の企画やディレクションを行うビジネスを始めていきました。
メンズ・ブライダルの領域に一点集中する
「1店+他社のコンサルティング」というビジネスに変えてから、堅実だけれど、スケールは落ちました。将来の展開を考えていたとき、たまたまブライダルビジネスと接点を持つ機会がありました。新婦用のドレスは、独自のデザインのものが多く、それをレンタルする専門店もあります。でも、新郎用のタキシードは普通のデザインのものばかり。そこで、デザイン性の高いブライダル用タキシードの製作依頼があり、つくることにしました。これが好評だったこともあり、創業10年目に広尾で新たにサロンを開設し、メンズ・ブライダル用タキシードなどを個別接客方式でレンタルするサービスを開始しました。
この「Salon by IZREEL」は、IZREELだけの独自のサービスです。価値観が多様になっていく中、画一的なものではなく、オリジナリティにこだわる結婚式を開きたいと考える人たちが増えると考えています。また、他との差別化を図るため新しい取り組みを始めているホテルやゲストハウスも増えてきています。このようなところと提携できれば、このサービスは大きな拡大が見込めます。ポテンシャルは大きいのに、まだやっているところがなく、まさにブルーオーシャンの市場。今はこのビジネスに一点集中して、拡大を目指しています。
ただ、そうそう簡単なことではないとも思っています。ブライダル業界は、歴史もあり、特に老舗ホテルほど昔からの付き合いがあったり、しがらみも多いからです。いかに障害を乗り越えて、割って入っていけるかが鍵だと思っています。それには、自社のコンテンツを磨いたり、話題をつくっていく必要があります。当面の狙いは、外資系ホテルとゲストハウスで、既に某有名ゲストハウスとは契約をしました。今後、他にも広げていきたいですし、いずれはフランチャイズ形式で全国展開もしていければと考えています。
パーソナルブランドを確立するお手伝いをしていきたい
中学と高校時代は、野球漬けの日々。服といえば、制服とユニフォームとジャージだけでした。ただ、当時からモノへのこだわりは強く、誰がどのブランドのグローブを持っているかはすべて把握していました。ブランドのマークをちらっと見ただけで、一発で覚えて絶対に忘れなかったからです。今でも、街を歩いていると、「あの服の襟の角度はどれくらい」「ネクタイの幅は何センチ」といったことは、一目見ただけでわかります。じっくり観察するというより、自然に目に入ってくるんですね。これまでもリサーチは意識してしたことがなかったのですが、勝手にインプットされていたのかもしれません。
リーダーとして大切にしていることは、自分を疑わないこと。経営をしていると、「うまくいかないかな?」「大丈夫かな?」と感情が揺れることもあります。でも、自分を疑って解決することはありません。「自分を信じること」と同義ですが、「疑わない」「ケチをつけない」という言葉の方がしっくりきます。あと、経営者は鈍くてバカな方がいい。いろいろなことが起こるので、正気ではやってられないからです。例えば、「明日、これだけの額が必要。でも何の方法もない・・・」そんな呆然とする場面が何度もありました。でも、それをいくつも乗り越えるうちに、図太くなっていったし、イライラもしなくなっていきました。
健康には気をつけています。食事もそうだし、週2回の筋トレも欠かしません。また、歯もすべて治しました。デザイナー兼経営者という職業上、自分のブランディングも大事で、服だけでなく、トータルな見た目や美意識が大事だと思っているからです。また、ゴルフにも良く行きます。単純に好きなこともありますが、仕事にもつながっています。「ゴルフ好きなデザイナー」ということで雑誌に取り上げてもらったり、ゴルフ仲間には経営者も多いので、お客さんとして来店してくれたりもします。
今年から、専属デザイナーかつスタイリストとして個人のブランディングをサポートする会員制のサービス「Order & Trade」を新たに始めました。購入することにより増え続ける洋服に対する漠然とした不安がありました。「本当に価値があり、必要とされるものだけを身近に置いておいて欲しい」そんな考えから、このサービスを始めました。具体的には、オーダースーツを一定期間(半年間)着用してもらい、その後、当社が下取りをします。それにより、クローゼットは最適な状態をキープし続けることができます。
また、スタイリングをサポートすることにより、個人のブランディングをつくるお手伝いもしていきます。これからは、個の時代になるので、一人一人がパーソナルブランディングを確立させる必要があると考えています。個人の方のセルフパートナーとして末永いお付き合いをしていきたい。そして、70歳くらいになっても、ビシッとスーツを着て、元気で溌剌と接客をしていたい。そんなことを思いながら日々を過ごしています。
高倉一浩( タカクラ カズヒロ) : 神奈川県出身 株式会社IZREEL 代表取締役 / デザイナー
数学を専攻していた大学を卒業後、服好きが高じてアパレル会社に入社。営業・生産・MDの職種を歴任し、あらゆるビジネススキームを吸収。2003年5月、IZREEL(イズリール)を設立し、デザイナーとしてデビュー。IZREELとは、Is Realであり、モノづくりにおける本質の追及を意味する。2004年より海外展示会に出展。2005年には、イタリア(フィレンツェ)のPITTI IMMAGINEUOMOより招待を受け出展、世界の有力セレクトショップでの取り扱いが始まる。2007年9月には、初のランウェイショウとなる東京コレクションに参加。以降7シーズン、東京コレクションにて作品を発表した。同時に外部ディレクターとしての活動も行う。以下、主なデザイン、ディレクション活動。
2005年 DUVETICA / メンズデザイナー
2009年 ㈱ライカ /「 BIGLIDUE ビリドゥーエ」
2010年 青山商事㈱ ザ・スーツカンパニー / 「N・G・A・C エヌジーエーシー」
2011年 ㈱アシックス /「 オニツカタイガー」
2013年、ブライダル向けのフォーマルラインとして「IZREEL ANFORMALイズリール アンフォーマル」をスタートさせる。