Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.032 南章行さん

2016/03/09 (水)
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南章行さん

株式会社ココナラ
代表取締役

個人の知識やスキル、経験をインターネット上で自由に売り買いするマーケットプレイス「ココナラ」を運営する株式会社ココナラを創業した南さん。2012年7月 にサービスを開始してから、3年ほどで登録ユーザー数が20万人、出品サービス数が6万件、累積成立取引数が60万件に達するなど急速にビジネスを拡大させています。今回は、ご自身のキャリアや起業、将来のことについてお話しいただきました。

できないときから自分の立ち位置を宣言する

私は、大学卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)を経て、プライベート・エクイティという、いわゆる企業買収ファンドであるアドバンテッジパートナーズ(AP)に入社しました。これまでの人生の中で、AP入社後の1〜2年が一番苦しんだ時期でした。上司も同僚も、マッキンゼーやベインといったコンサルティング会社の出身者ばかり。しかも、ほぼ全員がMBAホルダー。一方、私は、銀行の支店や調査の経験しかなく、プロフェッショナルのスキルがないどころか、パワーポイントすら使ったことがない状態。スキルが圧倒的に不足していたのです。

入社1年後に上司との面談があったとき、「君は得意なものが何もないよね。バリューを出せないなら辞めてもらうから」と言われました。また、ほぼ同年代の人と仕事をしたとき、相手のキラキラするような分析を見て、「こりゃ勝てんわ。差がありすぎる」と、自分の立ち位置は事業分析ではないと悟りました。「では、どこで勝負するか?」と考えたとき、「ファイナンスで勝負しよう」と決め、周りに「自分はファイナンスが得意なので、わからないことがあったら何でも聞いて!」と宣言しました。

実は、銀行出身でしたが、当時はファイナンスのことをよく知りませんでした。でも、宣言したから周りはドンドン聞いてくる。コンサル出身者は意外とファイナンスが弱い人が多いんです。でも、自分も弱いので当然答えられない。そんなときは、「後で答えるから待ってて」とその場では答えず、知っている人に聞いてから答えるということをしていました。また、「勉強会をやります!」と企画をしますが、講師はできないので別の人に頼む。

ただ、こういうことをしている内に、徐々に知識が増え、答えられることが多くなる。自分で勉強会の講師を務めるようにもなる。すると、社内では「ファイナンスの南さん」というラベルがつき、自分の居場所を初めてみつけることができたのです。この経験から、できない内からでも、「できます」「やれます」と言い切ることが大切だと思いました。やっていく内にできるようになっていくからです。

南さん2

それぞれの得意を活かしてチームを組む

AP時代は、当初、スキル面では経験不足もあり、苦手意識がありました。でも、交渉は得意で、特に自分の仲間に巻き込むような交渉スタイルには自信がありました。ある案件で、銀行から資金調達をするとき、本来は利害が対立する銀行の営業担当者と仲良くなり、協働で審査担当者にアプローチすることで、有利な条件を引き出すことができました。

また、ある女性用の下着補正メーカーの再生案件では、下着を試着するサロンに男性は社員でさえ滅多に入ったことがなかったのに、投資チームとして初めて入ったりもしました。まず、サロンに妻を連れて行き、妻の下着を一緒に選ぶという理由で、なんとフィッティングルームの中にまで入らせてもらいました。ただ、ここでの目的は、会社の人にその事実を知ってもらうこと。案の定、すぐに社内で「南さんが男性なのにフィッティングルームに入ったんだって」と評判になりました。そして、「社員でもない株主の立場で、あそこまでやるんだ。そこまで真剣なんだ」と思ってもらえ、それ以来、社員の方から信頼され、共に再生に向けて取り組んでいくことができました。

以前は、自分の苦手なところにばかり目がいって、自信をなくすこともありました。ただ、経験を積んでいく内に、「苦手なところは他の人に任せればいいじゃん」という考えに変わり、自分なりの戦い方やスタイルを身につけていきました。AP時代に一番うまくいったパターンは、分析が得意なコンサル出身者と、交渉や人を動かすことが得意な自分が組んだときです。「それぞれの得意を活かしてチームを組んでいけばいい。それが一番うまくいく」そんな考えを持つようになりましたが、それは起業した今でも変わりません。

南さん3

いかに自分をクビにする仕組みをつくるかが課題

AP時代に、一年間休職して英国オックスフォード大学のMBAコースに行きました。オックスフォードMBAは、プライベート・エクイティの分野で欧州トップのMBAと言われていますが、実はソーシャル・アントレプレナーシップ(社会起業)のコースも有名なんです。入学後のオリエンテーションでも、学校側から「社会起業家を目指してください」と言われたたほどです。在学中に、あるNPO法人のコンサルティング・プロジェクトに関わったこともあり、卒業後に日本でNPO法人を二つ立ち上げました。その後、2012年に、3人の創業メンバーで株式会社ココナラを設立しました。

ココナラは知識・スキルの個人間取引(CtoC)プラットフォームです。これまでは、自分の得意を活かしてビジネスをしたいと考えても、Web サイトの作成、決済手段の導入、集客活動などのコストを考えると、ニッチでちょっとしたサービスを単独で成立させることには難しさがありました。ココナラは、どなたでも自分の得意を活かした相談サービスをネット上で気軽に提供できるようにと、簡単な出品の仕組みを持ち、初期費用や月会費は無料、サービス提供価格は一律 500 円からという、チャレンジしやすい価格設定を行った日本初のサイトです。2012年7月にサービス開始後、2016年2月時点で登録ユーザー数約 24万人、出品サービス数約 6万件、累積成立取引数約 60万件を実現しています。

ココナラweb

ココナラを3人でスタートしてから、現在は30名近くまで社員が増えました。ここ数年で、ビジョンや戦略、提供するプロダクトも固まってきました。資金もそれなりの額を調達でき、株式上場も視野に入ってきました。ただ、これから、もっと会社を成長させていくには、優秀な人を多く採用して、勇気を持って仕事を任せていくことが必要で、それには「自分をいつクビにできる仕組みをつくるか?」が課題と考えています。

経営者の仕事は、ビジョンや戦略といった方向性を決めたら、あとは勇気を持って社員に任せることだと考えています。仕事を任せるのは正直、不安があるし、また、自分がしてきた仕事を取られるのは恐いもの。だから、自分にとって一番大切な仕事や強みが活かせる仕事ほど手放しにくくなる。でも、そうなると自分がボトルネックとなって物事が進まなくなってしまう。他の誰かができる仕事は思い切って任せて、経営者にしかできないレイヤーの仕事をやる。それは、ビジョンや方向性を示すこと。そこだけは誰にも任せられない経営者の仕事だと考えています。

南さん4

10年ごとに新しいビジネスをつくっていきたい

実は、「80歳まで働くにはどうすればいいのだろう?」と考えたことも起業をした理由の一つです。私たちの世代は医療の進歩もあり、100歳くらいまで寿命が延びている可能性があります。一方、年金はあまり期待できない。すると、80歳くらいまで働くことになる可能性が高い。その歳で人に雇われているイメージはないので、雇う側に行くしかない。それに、今、80歳の人の話を聞きたいと思いませんが、ソフトバンクの孫さん、ユニクロの柳井さん、京セラの稲盛さんなら80歳になっても話は聞きたい。「やっぱり創業者にならないといけない」そう思ったこともあり起業に踏み切りました。

起業当時は、36歳で専業主婦の妻と子供がいました。一見すると無謀に見えるかもしれませんが、実は起業は金銭的なリスクはほとんどないんです。今、多くの企業は成長のための次の一手を考えていますが、新しい事業をつくった経験のある人がほとんどいないので、新しいビジネスを生み出せずにいます。だから、仮に起業して失敗しても、起業で経験したことに価値があるため、雇ってくれる可能性が高いんです。

あるとすれば心理的なリスク。周りから「あいつ勢いよく飛び出して起業したけど失敗したよ」と、冷ややかな目で見られることくらいですね。ただ、それを表立って言う人はいないので、別のいろいろな理由をつけて起業に踏み切れない人が多い。でも、先の見えない時代には、先頭に立ってトライし、粘り強く続ける姿勢が起業家だけでなく、すべてのビジネスパーソンに求められるはず。それなら、早めに飛び出してトライした方が良いと思っています。

ココナラoffice

昨年から、ランニングとロードバイクを始めました。年齢的に体力が衰える時期でもあるし、なにより健康でないと頭も鈍り仕事に支障が出ます。当初は5キロ走っただけで死ぬかと思いましたが、ハーフを走れるようになり、今はフルマラソンも走れるようになりました。練習すればするほど成果が出る点が純粋に面白いです。

トレイルランをするときは、例えば長野まで泊まりに行ったりもします。遠くまで行くと気分転換になりますし、仲間たちと一緒に寝泊まりすることも楽しい。男性は40代に入ると、体にガタがくるし、仕事も先が見えてきて気を病む人が多いんです。心身の健康を保つためには、自分ができないことや新しいことを始めるのがいいと思います。ゼロから学ぶことで成長を実感でき、生活にハリが出るからです。

いま、ココナラの主要顧客は30代の方です。私自身がその世代を経験し、顧客側の気持ちがわかるので、こういうサービスを提供できました。ただ、高齢者のことはわからないので、その世代向けのビジネスを立ち上げるのは難しいし、無理だと思います。でも、自分もこれから歳を重ねていき、いつかはその世代に達します。その過程で、例えば50代になったら、50代の人が喜ぶビジネスを、60代になったら60代が喜ぶビジネスをつくりたいと思っています。自分がやってもいいし、他の人をサポートする側でも構わない。どんな形でもいいから、10年に一つくらいのペースで新しいビジネスをつくる。そして、80歳まで働く。そんなことを考えながら日々を過ごしています。

南さん5

プロフィール

慶応義塾大学を卒業後、1999年4月、住友銀行(現三井住友銀行)に入行。運輸・外食業界のアナリスト業務などを経験したのち、2004年1月に企業買収ファンドのパイオニアであるアドバンテッジパートナーズに入社。5件の投資案件を担当し、投資先企業の役員としての経営改善活動や、良好な投資リターンの実現に貢献。2009年にはオックスフォード大学MBAを修了。帰国後、NPO法人ブラストビート、NPO法人二枚目の名刺の立ち上げに参画。2011年6月にアドバンテッジパートナーズを退社し、自ら代表として株式会社ウェルセルフ(現株式会社ココナラ)を設立。C2C型のサービスECプラットフォーム「ココナラ」を運営。

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