Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.042 倉貫義人さん

2016/07/22 (金)
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倉貫義人さん

株式会社ソニックガーデン
代表取締役社長CEO

「納品のない受託開発」をコンセプトにソフトウェアの開発・運用を月額定額で提供する株式会社ソニックガーデンを創業した倉貫さん。いつでも、どこでも仕事ができる「リモートワーク」や指示や命令を一切しない「管理しない経営」などユニークな経営スタイルがメディアでも多数取り上げられています。今回は、ご自身のキャリア、起業、将来の夢などについてお話しいただきました。

社内ベンチャーで商売の原則を知る

私は、子供の頃からプログラミングが好きでした。そんなこともあり、大学卒業後はTIS(旧東洋情報システム)に入社し、プログラマとして受託開発などを担当しました。でも、入社してから、「日本のプログラマはクリエイティブではない。人海戦術でやっているけど、うまくいっていない。特に大きなプロジェクトほど失敗している」と気付きました。「自分が本当にやりたいことを、もっとクリエイティブに実現させたい」そう思っていたとき、米国発で出てきたアジャイル開発に出会いました。

アジャイル開発とは、顧客と共同作業で、少しずつ確認をしながらプログラムを修正し、仕上げていく開発スタイルです。このスタイルの方がエンジニアと顧客の両者にとって気持ちがいいはず。日本でも広めていこうと仕事と並行して、執筆をしたり、講演をしたりと啓蒙活動を始めました。その後、社内で異動があり、エンジニアの情報共有を行うための社内向けシステムの開発を担当することになりました。これが好評で、他社にも販売することになり、TISの社内ベンチャー第一号として事業がスタートすることになりました。

倉貫さん1

これまでエンジニアの仕事しかしてこなかったのに、いきなり社長として経営をすることになりました。経営も営業のことも知らない。そんな状態だったので、製品が全く売れない。当初は、「いいものをつくれば売れる」と思っていました。でも、まだ世の中にないシステムだったので、コンセプトが全く理解されない。それではと営業に関する本を読んで、見よう見まねで営業してみる。でも売れない。「製品ばかり見ていて、顧客を見ていなかった。会議室の中だけで企画を検討していたのがダメだったのかも」その反省から、顧客のニーズを聞いて、何が困っているか聞いてみようとテレアポを開始。リストをつくって電話をかけまくりました。それでもなかなか売れない。

そのとき気づきました。「自分たちは、営業は好きでないし、得意でもない」と。「もうアウトバウンドをやめて、インバウンドだけにしよう」そう決めました。WEBを通じて、自分たちが持っている情報を全部出そう。システム導入のノウハウまで全部惜しげもなく提供しよう。営業をせず情報発信だけをすることにしました。新しいシステムの導入を検討するとき、担当者はまずWEBで調べるはず。そのときに情報をWEBに載せておけば検索で引っかかるはず。そのように方針を切り替えてから、問い合わせは減りましたが、WEBを見て当社の考えに共感してくれるファンが現れ、受注してくれました。(ソニックガーデン代表 倉貫義人のブログはこちらです)

倉貫さん2

ただ、情報共有システムは導入までに1年くらいかかる息の長いプロジェクト。その間にお互いの人間関係は築けますが、無料のまま最後まで案件を進めるにはリスクを伴います。ただ、副社長から「この顧客は応援したいので、収益にならないかもしれないけど、絶対にやりたい」との話があり、最後までやることに決めました。そして、やり遂げた結果、その後、その顧客との間で大型案件を受注することができました。

社内ベンチャーを立ち上げてから赤字が続いていたので、収益に意識が向いていました。でも、本来、商売は困っている顧客をサポートすることが先で、おカネはその後についてくるもの。その基本原則を思い知らされました。それに、自分たちでつくった製品には思い入れがあるので、売って終わりにはしたくない。「単発ではなく、長くお付き合いしたい顧客をサポートする仕事をしていこう」との基本方針もできました。

社内ベンチャーを2年続けた後、TISからMBOにより株式を取得して株式会社ソニックガーデンを創業しました。創業メンバーは5人で、全員がエンジニアです。現在は、「納品のない受託開発」をコンセプトにソフトウェアの開発・運用を月額定額で提供するサービスを中心に展開しています。「心はエンジニア、仕事は経営者」をモットーに、当社の掲げるビジョン達成のための経営に取り組んでいます。

SonicGarden

社員と顧客の両方を幸せにするのが経営者の仕事

経営者としての仕事は、「社員と顧客の両方を幸せにする仕組みをつくること」と考えています。もともと起業したかったわけではなく、社内ベンチャーを立ち上げたことから成り行きで起業することになりました。それにエンジニアとして、「誰もつくっていないプログラムをつくってみたい」と、いいものをつくることにモチベーションを感じるタイプです。それもあり、数字への野心や野望がないんです。上場も結果としてするかもしれませんが、特に目指してはいません。それよりも、みんなが楽しく働ける会社にしたいと思っています。

社内ベンチャーを立ち上げたとき、経営の知識が全くありませんでした。ただ、アジャイル開発のプロジェクトマネジメントに関する本は、啓蒙活動をしていた関係で、死ぬほど読んでいたんです。そこで、チームビルディングなどの組織づくりやプロジェクトの進め方については勉強していました。ソフト開発の業界では、経営資源の100%が人です。「どうすれば人が気持ちよく働けるか?」そのことはずっと考えていました。結局、外発的な動機ではなく、内発的に動機づけられないと楽しく、いい仕事をすることができない。そんな考えに至ったことも人を大事にする経営につながっていると思います。

また、社内ベンチャーから独立するとき、5人の社員がいました。彼らは、いわば親会社からの出向組なので、親会社に戻る選択肢もある。そこで、彼ら全員と話をしました。「独立するけど、ついてくる?ついてきた場合はもう親会社には戻れない。それに会社が潰れるかもしれない。でも、ついてきて欲しい」すると、全員から即答でOKとの返事がありました。本当に嬉しかったです。上場企業の社員という肩書きや安定を捨ててまでついてきてくれた。その社員たちに報いよう。その考えは今も変わりません。社員がいないと社長は何も仕事ができない。社員を大事にする経営をしていこうと思っています。

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当社では、「管理しない経営」という独自の経営スタイルをとっています。指示も命令もしません。個々人が自分で自分のことをマネジメントする「セルフマネジメント」の集団です。だから、組織図もないし、フラットな組織なので中間管理職もいない。そもそも中間管理職は20世紀のマネジメントスタイルというべきピラミッド型組織で必要とされたもの。それに、プログラマの世界は技術の移り変わりが早いので、上司よりも部下の方が技術に詳しく、仕事ができます。それに顧客のことも直接接している分、よく知っている。上司が部下を助けることができないんです。すると、成長のボトルネックは上司となる。なので、当社には中間管理職を置かないことにしています。

とかく組織はヒエラルキーをつくりたがるものです。そして、自分がその中で偉くなって、周りをコントロールしたくなる。偉ぶりたくなる。でも、自分にはそんな考えがないんです。子供の頃からプログラムを自由に書くのが好きで、コントロールされるのが嫌だったからというのもあります。だから、コントロールとか管理はしたくないんです。

経営とプログラミングは似ていると思っています。ロジカルじゃないと人も機械も動かないからです。特に当社は、全員がプログラマで、筋の通っていることを言わないと動いてくれない人たちばかり。その意味で、私が何かアイデアを思いついたときは副社長と筋が通っているかの確認を毎回しています。この作業を「コンパイル」と呼んでいます。コンパイルとは、コンピューターが理解できるようにプログラムを翻訳したり変換すること。これがうまくいかないと、バグが出てうまく動かないので、そう名付けています。

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プログラマを一生の仕事にするのが夢

当社では社員がセルフマネジメントのスタイルで働いているため、勤怠管理等の必要がありません。そこで、オフィス以外で、いつでも、どこでも自分のペースで働けるように2年前から「リモートワーク」を始めました。これを実践するためのツールがなかったので、自分たちが欲しいシステムをつくり、今年から他社向けに販売を開始しています。(https://www.remotty.net/

40歳を過ぎて体の衰えを感じたり、病気になることが増えました。体が弱まると、経営も弱気になり、どうしても後向きになってしまいます。「元気じゃないといい仕事ができない」そんな思いもあり、運動を始めることにしました。基本的に、一人でストイックにやることが好きなので、水泳、マラソン、トライアスロン、スキューバダイビングなどを始めました。リモートワークで通勤時間がゼロになったので、その時間を運動に当てています。

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いまの一番の気がかりは社員の健康問題です。在宅勤務なので、どうしても不健康になりがちだからです。楽しく持続的に仕事を続けられるようにしたいので、みんなには健康でいてもらいたい。そんなこともあり、社員と一緒にできる運動として登山、トレイルラン、ロードバイクも始めました。実は、リモートワークも社長からまず始めたんです。社長はクレイジーなことを言っても、やっても怒られないので、まず実験台としてやる。それを見て、周りが「あ、それをしてもいいんだ。怒られないんだ」と思って続く。それに社長が率先して楽しそうにやっていると、周りもやってみたくなるもの。新しい取り組みを広めるコツはこれだと思っています。

「プログラマを一生の仕事にする」これが当社のビジョンであり、ミッションでもあります。プログラマは本来、クリエイティブな仕事だし、社会から求められている仕事です。でも、実際は35歳くらいで引退して、マネジメントの道に進むか別の新たな仕事に就く人がほとんどです。それは本当にもったいない。そんな世界を変えていきたい。プログラマを一生涯の仕事にできるような業界にしていきたい。本気でそう思っています。

そのためには、まず自分たちから実践する。自分たちがずっとプログラマであり続ける。新しい働き方を考え、実践する。実践すると話ができるので、世の中に向けて発信もしていく。それを見た一人でも多くの人が「あ、プログラマって一生できるんだ」と思い、実践していく。そんな社会の実現に向けて、これからも様々な取り組みを続けていきます。

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ソニックガーデン代表 倉貫義人のブログ(http://kuranuki.sonicgarden.jp/

プロフィール

株式会社ソニックガーデン代表取締役。大手SIerにてプログラマやマネージャとして経験を積んだのち、社内ベンチャー「SonicGarden」を立ち上げる。2011年にMBOを行い、株式会社ソニックガーデンを設立。「納品のない受託開発」という新しいビジネスモデルを展開し注目を集める。著書に『「納品」をなくせばうまくいく』『リモートチームでうまくいく』など。「心はプログラマ、仕事は経営者」がモットー。

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