Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.051 気賀崇さん

2017/01/06 (金)
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気賀崇さん

イントリックス株式会社
代表取締役社長

BtoB企業に特化したデジタルマーケティングを支援するイントリックス株式会社を創業した気賀さん。日本企業の海外展開を加速させるため、ダイキン工業、クボタ、富士電機をはじめ数多くの日本企業のグローバルWEBサイトの構築を支援されています。今回は、ご自身のキャリアや会社の今後の展開などについてお話しいただきました。

BtoB企業に特化したデジタルマーケティング支援会社

私は、高校3年まで理系でした。ただ、大学は文系の学部に進学し、ファイナンスを専攻しました。文系だけでなく理系の要素も含まれていて、元理系の自分には合っていると思ったからです。卒業後は、米国の老舗プライベートバンクであるブラウン・ブラザーズ・ハリマンに入社、日本株の運用アナリストを担当。その後、ニューヨーク駐在となり、4年過ごしました。アナリストとして何百社もの上場企業を調査していましたが、数が多すぎて、どうしても広く浅い分析になってしまう。もっとビジネスの実業サイドに近づきたいのに深く入り込めない。どこかモヤモヤした日々を過ごしていました。

時代は1990年代の後半。世の中にインターネットやITビジネスが出回り始めていました。でも、ほとんどが広告モデル。「インターネットにはもっと可能性があるはずなのに…」と考えていたとき、戦略とシステム、そしてデザインを統合させ、デジタルを活用したビジネスを展開する米国サイエント社のことを知って入社。それから、ネットビジネスの戦略策定やグローバル企業のWEBサイトを構築する仕事をしていました。

入社して7年経った頃、「BtoBの市場に穴が開いている」との思いが非常に大きくなっていました。当時私の顧客は、海外展開を進める日本のBtoB企業がメインでした。でも、大手のWEB制作会社や広告代理店がどの企業にも深く入りこんではいなかったんです。「BtoCと違い、BtoB企業にはデジタルマーケティングを支援できる会社がない。これは大きなビジネスチャンスだ。」と思いました。

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そうなっている理由には、BtoCとBtoBでのコミュニケーションスタイルの違いがあります。BtoCでは15秒テレビCMなど一瞬で視聴者の気を引く広告が中心。でも、BtoBでは、課題解決につながるのかということをもっと詳しく、具体的に伝える必要があります。それにBtoBは難しいとの心理的障壁もある。そんなことからニーズは高いのに、支援会社がないという状態ができてしまったのです。

私はまた、BtoBとデジタルの親和性の高さから、マーケットの大きさも感じていました。製品の詳しい説明を要するBtoBでは展示会や営業マンを使うことがメインの販売手法でした。でも、WEBサイトを使えば何万点もの製品ラインナップを構造的に並べて詳しく説明できます。BtoCと比べてまばらな販売網を補うこともできます。突如現れた手法ゆえ、今できているところはないけど、これは決してニッチではなく、マーケットは大きいはず。そう思って会社に「BtoBに特化して事業をやりたい」と提案しましたが、すでに手掛けているBtoCを捨てて打ち手を絞ることは簡単に出来ることではありません。「では自分でやろう」と起業することにしました。

2009年、BtoB企業に特化したデジタルマーケティングを支援するイントリックス株式会社を立ち上げました。当社では、戦略、デジタル、デザインの三位一体でWEBサイト構築をはじめとするBtoB企業の対外コミュニケーションを支援しています。その目的がはっきりしていることを前提とすると、使われるWEB作りのポイントはデザインです。例えば経費精算のような、ある意味利用を強制できる業務支援サイトであれば使い勝手が悪くても使ってくれますが、WEBサイトはユーザビリティやデザインが良くないと使ってくれないですよね?あとBtoBに特化している点も特徴です。当社の同業は、BtoC/BtoBの区別なく手掛けていることが大半ですから、非常にユニークなポジショニングだと思います。

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急がば回れ

当社は、主に海外展開する日本のBtoB企業のグローバルWEBサイトを構築するサポートをしています。グローバル企業になると、国内だけでも本社のコーポレート、サービス、採用、IR、それに何十もの販社サイトがあります。それに海外サイトも含めると100とか200のサイト群になります。でも、あまりに数が多すぎるため、サイト間にまとまりや統一感がなく、バラバラな状態で運営されているケースがほとんどです。

日本企業の成長の源泉は海外にあります。でも、グローバルサイトがわかりにくく、使い勝手も悪いと本来の価値が伝わらないため、グローバルの競争で勝つことが難しくなります。当社では、お客様企業を俯瞰し、構造化して、価値を伝えるサポートをしています。ベースとなる考えが「C=C×C」です。これは、「C(コンテンツ)=C(クリエイティビティ)×C(コミュニケーション)」という意味ですが、ポイントは掛け算であること。企業が訴求すべきコンテンツ=企業の価値は、それがいくらクリエイティブであったり技術力が高くとも、コミュニケーション(伝え方)がゼロなら顧客から見た価値はゼロになるということです。届かなければ、理解はされませんからね。

往々にして自分の会社のことは、灯台下暗しでわからないことが多いものです。それに日本人は控え目で真面目な人が多い。特にBtoB企業で理系の方はその傾向が強いので超控え目です。自己評価が厳しすぎるのです。結果、本当は自慢できることなのに、自分たちの価値を過小評価するので、強みや価値に気づいていなかったり、発信していないことが多い。例えば、世界No.1なのにグローバルサイトにそのことが一切書かれていない。世界的に見ても珍しいことをしているのにサイトに全く出ていない。そんなケースがよくあります。

あるいは、部署同士のしがらみがあったりで、社内に気を遣いすぎて、具体的な製品や事業ではなく、漠然としたコンセプトを打ち出しているケースも多い。これでは何をしている会社かわかりません。当社のお客様は大企業が多いので日本でならばある程度知名度があるからまだ良いにしても、海外の潜在顧客には全く伝わらないはずです。その意味で私たちは、顧客が知りたがっていることや、その企業がその企業である所以にフォーカスするように心掛けています。そのために企業が持つコンテンツ(価値)をすべて棚卸して、それを構造化し、その企業独自の価値をデジタルで正しく表現していくように努めています。

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当社はグローバルWEBサイトを構築するのがメインの仕事のため、プロジェクトの規模は自ずと大きくなります。創業から4年ほどは一本足打法で少数の大口顧客への依存度が非常に高い状況にありました。でも、あるときプロジェクトの大型化に当社の体制が追いつかず、ぽっかり穴があいてしまい苦境に立たされました。それからは売上の分散化を図るため、意識的に顧客数を増やすように努めています。BtoBやグローバルと言った当社の差別化施策には自信があったのですが、会社経営は攻め一辺倒ではなく、守りも重要であることを痛感したのがこのときでした。以来、負けがこまないようにすることも心掛けるようになりました。麻雀でもおりるポイントを見極めるのがうまい人が強いですしね。ですから、キャッシュもなるべく多く持っておくようにしています。アナリスト時代は、資本効率の観点から「キャッシュは溜め込まない方がいい」と企業に指摘していましたが、起業してからは「理論と現実は違うな」と感じています。企業規模の違いもあるでしょうけどね。

当社のスタイルは「急がば回れ」です。いろんな案件に貪欲に取り組もうとしていたある時期、辞める人が増えてしまったことがありました。そのとき「仕事の振り方が乱暴だったかな」と反省し、適度なスピードで成長していこうと決めました。Webコンサルティング・制作を手掛ける当社は、人、つまり社員が全てです。そして人にはそれぞれの成長スピードがある。それを超えたスピードを出せば、必ずひずみが出てしまいます。IT業界はドッグイヤーとも言われ、スピードも大事な要素の一つではあります。でも、当社の場合、顧客はWebサービス企業ではなく、リアルな企業ばかりです。単純に速ければいいわけでなく、顧客の特性に応じて適正な速度でお手伝いすることが長い目で見れば最善のアプローチだと考えています。

と同時に、教育については、その頃から力を入れるようになりました。プロジェクトマネジメントやWebディレクション、情報構造設計、資料作成ノウハウから、ヒアリングやファシリテーションまで、大型のプロジェクトをスムーズに進行させる当社のノウハウを、シニアメンバーが後進に伝えています。外部の教育も含めると、30人弱のこの規模の割に、教育関連投資はかなりアグレッシブだと思います。ITやコンサルティングの世界でも、引き継ぎ可能なナレッジの体系化は途上にありますが、ましてやまだ若いデジタルマーケティング支援の世界では、属人的なスキルが圧倒的な幅を利かせている。2016年には、この市場への大型参入が相次ぎ、戦略・デジタル・デザインの三位一体を謳う企業も増えてきましたが、三位を俯瞰できる人材の育成は容易ではありません。人材教育は、当社の差別化戦略を支える最重要施策として、絶対に手を抜きません。

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日本のINDUSTRYをINTERNETでINNOVATEする

当社のミッションは「日本のINDUSTRYをINTERNETでINNOVATEする」。インターネットを活用して日本の産業をイノベーションすることです。それほど名前が知られていなくても優れた技術を持ったBtoB企業が日本にはたくさんあります。当社は、そんな企業がもっと目立っても良いと思っています。「日本の技術はやっぱり凄い」と世界中から言われるようにしたい。当社は、Japan Brandの価値を更に高め、世界中に広めるお手伝いをインターネットを通じて全力で行います。

イントリックスは、創業以来、顧客ごとに解決策を提示するオーダーメード型のサービスを提供してきました。いま、新しい取り組みを二つ始めています。一つはソフトウェアです。BtoB企業のWEBサイトには、例えば製品検索のようにソフト化できる汎用機能が豊富にありますので、セミカスタマイズソフトウェアとして既に販売を始めています。もう一つはポータルサイトの運営です。BtoBの製品は数が膨大で、適切な技術や製品・サービスをタイムリーに探すことが難しいため、検索やマッチングには強いニーズがあると考えています。

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新しいことを派手に打ち出すのはアップルやグーグルのような米国企業が得意ですが、スマートシティのように巨大でクローズドな仕組みを緻密に組み上げる仕事は日本のBtoB企業にも十分勝機があります。今後、日本企業がもっとクローズアップされる可能性は高く、BtoBコミュニケーションの活性化には巨大なチャンスがあるのです。当社はBtoBに特化してきたため、BtoBの職人的なマインドがあります。それに、通常のWEB制作会社や広告代理店にはない専門的な知識もあります。他社にはない独自のポジションを作れましたが、そこに安住することなく、さらなる体制強化に努めていきます。

社員には「この業界は教科書のない世界だよ。だからそれを楽しもうよ」とよく話しています。生産や広告といった仕事は何百年、何十年もの歴史があります。でも、デジタルマーケティングはたかだか20年くらい。まだまだ、これといったノウハウがない業界です。でも逆に言えば、変なしがらみも一切ない。自分たちで教科書をつくっていける最高に面白い業界だと思っています。私自身、この仕事は文系と理系の要素が融合されている点で自分の志向とドンピシャで合っています。死ぬまでこの仕事をしていきたいと思っています。

デジタルの世界ではWEB以降、これまでもSNSやアプリなど新しいことが次々に出てきましたが、その流れはこれからも続くはず。デジタルマーケティングのニーズももっと高まるはず。そう思っています。ネットの世界では本当に強いものや真実に収束していきます。ダメなものはクチコミで広まり淘汰されていくからです。その点、日本のBtoB企業は強い。自身を過大に見せるのではなく、過少に見せ続けてきていますから。日本企業の底力を必要とする企業はまだまだ世界中にいます。でも、控え目な企業が多すぎる。当社は、これからもBtoBへの特化を続け、高い実力と低い理解のギャップを埋めていきます。そして、それを表現できるメディアはWEBサイトであると、強く確信しています。

私たちはいずれ、「BtoBのデジタルマーケティングと言えばイントリックス」と言われることを夢見て、更なるサービスの拡充に努めていきます。

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プロフィール

1994年慶応大学総合政策学部卒業後、ブラウン・ブラザーズ・ハリマンのニューヨーク本社国際株式投資部にて日本/アジア株のアナリストを務める。2000年、サイエント株式会社入社。eビジネス戦略策定に従事する。2007年サイエントジャパン株式会社取締役に就任。サイト群・グローバリゼーション事業の責任者として、様々なBtoBメーカーのサイト群再構築プロジェクトをリード。2009年8月、イントリックス株式会社を設立。代表取締役に就任。BtoB企業に特化したグローバル視点でのデジタルマーケティングを支援している。㈳日本BtoB広告協会理事/デジタルマーケティング委員会委員長

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