株式会社コトヴィア
代表取締役
デザインの力で企業経営を支援する「感性デザインコンサルティングファーム」株式会社コトヴィア(COTOVIA)を創業された荻原さん。経営者や人々の想いや志を表現し、様々な企業のCI開発やブランド戦略など企業文化に携わる一方、日本の伝統や精神を伝えることにも取り組まれています。今回は、ご自身のキャリアや大切にされていること、文化継承への想いについてお聞きしました。
企業経営に感性デザインを取り入れる仕事
愛媛県宇和島市で生まれました。海と山に囲まれた歴史ある城下町であり、私が大切にしている「感性」を育んだ原点です。子どもの頃に父が起業し、多感な時期に事業展開をしていく父とそれを支える母の姿を見て育ちました。地方の中小企業は経営者に負うところが大きいことを実感し、学生時代、いつしか地方や中小企業をサポートするような仕事がしたいと思うようになりました。そのためには経営知識を身に付ける必要があり、大学院の経営学研究科に進むことにしました。
当時はインターネットビジネスが活発になっていたこともあり、大学院ではECビジネスによる価値創造に関する研究をしました。研究対象のほとんどは欧米のビジネスモデルで、マーケティング本や経営学書も、当時は欧米のケースや翻訳されたものが多かったです。それをそのまま日本の土壌に持ち込むことに違和感があり、どのように応用すれば良いのか考えはじめていた折、客員教授であった中西元男氏(PAOSグループ代表)のデザイン産業論という、主にコーポレート・アイデンティティ(CI)をテーマにした講義があり、「経営に変革を起こすデザインの力」に衝撃を受けたのです。
日本の文化や精神性、のれんや価値観、企業文化の伝承、経営理念の重要性など日本的な経営環境の背景に即して、企業の将来像や在り方を見通し、CIが開発されていくPAOS独自の考え方や手法に感銘を受けました。中西代表は、日本、アジアにおけるCIの第一人者で、企業経営とデザインの融合を理論化し、多くの成功事例を世に送り出してきました。私自身も子供の頃から、絵や音楽など芸術や文化が好きであったこともあり、「自分の感性を活かせられる仕事」かもしれないと思い、インターンシップを経てPAOSに入社させていただきました。
PAOSではプランナーとして従事し、中西代表のもと直接的に指導を受け、秘書的な仕事からCI、ブランド戦略の企画などあらゆることを経験し、理念や価値観、ノウハウなど、多くのことを習得しました。経営者層と直接仕事をする一流のプロフェッショナルな現場は大変に厳しいものでした。また、入社当初から「面倒を見られるのは3年」と言われ自主自立するために育て鍛えられ、私自身も「いつかは独立する時期が来る」と意識していました。結局、7年間在籍することになりましたが、PAOSでの経験を活かしながら新しい時代にふさわしい価値やサービスを提供する事業が、次世代を引き継ぐ私たちにできないだろうかと模索し始めた頃、中西代表から「応援するからそろそろ出なさい」と言われたことが大きな後押しとなり、当時PAOSで同僚であった女性3人のクリエイティブチームで独立し、COTOVIAを創業することになりました。
COTOVIAでは、「Emotional Design Power for People」を創業理念に掲げています。人々の生活や暮らしを豊かにし心にうるおいを与えるエモーショナルバリュー(感動価値)を創出し、次代を担う人々や企業、社会づくりをサポートしていきたいと考えています。社名の「コトヴィア(COTOVIA)」は、ポルトガル語で「ひばり(雲雀)」という意味です。「ひばり」が飛翔しあたたかな春を告げるように、感動価値を創出することで顧客の「新たな誕生」や「再生」「上昇」を支える存在でありたいとの思いを込めています。
私たちの仕事は、経営者や人々などの「願い」「想い」「価値観」をカタチ(可視化、ビジュアル化、シンボル化)にする仕事です。企業や組織のビジョンや経営課題を、感性訴求力を活かしてデザイン戦略を軸に解決し、クライアントと共に企業文化や社会貢献についてしっかり考え、未来を創造して行く「感性デザインコンサルティング」を目指しています。また、PAOS時代からも大切にしているポリシーとして、なるべく直接、経営者などの意思決定者と近い立場の方と仕事をさせていただいております。デザイン開発で見えない精神性を価値として創造していくプロセスや組織の意志疎通をはかる上でも重要なポイントです。
心と体を清らかに、真っすぐに
クリエイティブワークのプロセスでは、クライアントの要望や深層心理、大切なことに気づくこと、そして心と体を清らかにまっすぐな状態で在り続けることを心掛けています。心や感情、精神、健康状態が最適な状態であることが、良い価値を生み出せると思っています。子供のような純粋で無垢な気持ちのときこそ、顧客の状態や本質をうまく見抜くことができると感じているからです。そのため、ストレスを感じない職場づくりや人間関係に気をつけるようにしています。
20代の頃は、朝までアイデアをひねり出し、悩んで考えて悩み尽くして、生み出すような創造スタイルで仕事をしていた時もありました。アイデアを出すには考え抜くこと悩み続けることが大事であることは否定しません。実際に経営者となると日夜経営のことから頭が離れないのは当然です。ただ、独立をしてからは家庭を持つ女性スタッフばかりの会社となり、ワークスタイルや仕事姿勢、クリエイティブ作業スタイルを変えていく必要性がありました。「いかに短時間で効率的に最適な質の高い仕事をしていくか?」そのためには、リラックスして精神的に落ち着いている状態であることが必須であり、自分なりの頭や心がクリアーであり心身ともに健康な状態が大切と考えています。女性が活躍できる社会づくりが進められていますが、COTOVIAでは女性によるクリエイティブチームのモデルのような存在になれるように、一人ひとりの個性が活きる良い仕事を生み出していきたいと思っています。
伊勢で日本の文化や精神性の大切さを実感
COTOVIAを創業した2010年当時、社会の課題解決をテーマにした企業や社会起業家が次々に出現し、いわゆる「ソーシャル」という言葉をよく目にし始めるようになりました。私も2008年にリーマンショックはあったものの特別な停滞期とは考えず、「こころを重視する時代」と捉え、時代の価値観が大きく変化してきていることを感じ取っていました。
そして、2011年3月11日東日本大震災が起きます。東北地方を中心にした被害は大きく日本中が悲しみにくれました。何度かボランティアで被災地に足を運んだ私は、自然のもたらす大いなる力、命の大切さや儚さ、そして自然のいとなみと共に生きていることを実感するようになります。この大きな転換期は、日本の人々の考え方を大きく変えただけではなく、価値観の転換スピードをさらに加速させたと思います。私自身も「コトヴィアを通じて何ができるのだろう?」「これからの子供たちのためにどういう世の中を残していくべきなのだろう」と今後のライフステージを真剣に考えるようになりました。
そのような時、ある方のお誘いで伊勢に通い始めます。震災以降、心の拠り所を求めて、経営者や女性の方など多くの方が伊勢神宮を訪れている姿をよく見かけました。私も「こんな聖地が日本にあったのか」と驚き、通うたびに伊勢に魅了されていきました。
清らかに流れる川と深い森に囲まれた伊勢神宮を参拝し、とても穏やかで心が清らかになっていく気持ちになりました。また、身が引き締まると共に自分の感性が研ぎ澄まされていく何とも言えない感覚になりました。豊かな大自然に囲まれて素直な心で参拝することで、生きていることへの感謝の気持ちが芽生え、日本の文化の素晴らしさに気づいていきます。参拝することは自分と真正面に向き合い、自らの生きる使命について再認識する機会にもなりました。
そして、この素晴らしい自然や日本の美しい精神性や文化に通じる聖地・伊勢の雰囲気そのままを、日常生活に持って帰れないだろうかと思うようになります。そして、参拝する同世代の人々(特に感受性の高い女性)に向けた商品が伊勢には無いと気付き、伊勢ならではの価値を感覚的に伝える商品を企画開発しようと考えました。こうして、伊勢の人たちと恊働でオリジナル商品づくりが始まり、SORAYUI(株式会社そらゆい)が誕生します。SORAYUIでは、商品・サービスを通じて、日々の暮らしの中で、日本文化の素晴らしさや、自然への感謝の心を感じる機会につながっていくことを願っています。
未来の子供たちに歴史や文化を伝えていく
COTOVIA創業期に、私の地元にある金融機関、宇和島信用金庫様よりCI構築のお仕事をご依頼いただきました。宇和島信用金庫様の創業90周年を目前にした「全役職員参加型ブランド化CI」であり、CIとQCと方針管理をミックスした理念体系の基盤をつくりあげていく、約2年半におよぶプロジェクトでした。地域密着No1金融機関を目指し、特性や独自性を最大限に活かし、職員がボトムアップで行動する文化づくりや数値目標の達成を併せて行うことを目標にしました。またお客様は、中小企業の経営者や自営業者、高齢者の方も多く、親しみやすく信頼できる、また女性らしい優しさのある企業文化・イメージをつくりたいとのご要望でした。「元気な地域・元気な金庫・元気な私」をスローガンに「宇和島信用金庫らしさ」を追求し実践していきました。
一方、私は宇和島信用金庫様の仕事を通じて、地元のつながりである「地縁」や人のつながりである「人縁」の大切さ、その「地縁人縁」から、地域社会や人々との絆や信頼が深まって行くことを学びました。高校卒業後、地元を離れてから、お正月やお盆などでしか帰郷していなかったのですが、帰郷する機会が増え、新たな地元の魅力を再発見でき、新しい縁も広がり地域との絆が深まりました。
今年(2015年)は宇和島藩の初代藩祖である伊達秀宗公が宇和島に入部してから、ちょうど400年にあたります。地元では約9ヶ月に渡り「宇和島伊達400年祭」が開かれました。昨年(2014年)、宇和島信用金庫村尾明弘理事長から「地域に根ざした金融機関として、このイベントを一過性のものにしてはならない」「記念すべき400年を節目に未来の経済発展を見据えて、次世代へとつなぐ大切な機会にしたい」とご相談を受けました。そして、「民間として地域にどのような貢献ができるか」を考え企画し実行していく機会にしようと村尾理事長を中心とした役職員と弊社の実行委員会による「うわしん伊達文化NEXT100プロジェクト」を立ち上げることになりました。村尾理事長はブランド化CIプロジェクト当時専務理事であり、そのプロジェクトの実行委員長でもありましたが、CIをさらなる深化させていくため地域貢献への思いはとても強いものでした。NEXT100とは、次の100年を見据え地域経済を考えることと、宇和島信用金庫100周年への布石の意味が込められています。
プロジェクトでは、歴史姉妹都市である仙台にある宮城第一信用金庫様との業務提携による人材交流に始まり、子どもたちへ残す音楽「おかえり」制作支援、地元を舞台にした映画「海すずめ」制作支援、教育資金のための夢育てプラン「すくすく」や仙台の商品が当たる懸賞品付定期積金「仙台の香り」、伊達家の大名庭園の名勝天赦園にちなんだ懸賞金付定期積金「天赦の日」など新商品開発、宇和島伊達400年祭を応援するアイテム・グッズ類の制作、その他地域貢献活動への参画・支援など、幅広く様々な取組みを企画実施しました。宇和島城の切り絵をモチーフにした、2015年の年間カレンダーは、全国の信用金庫のなかで、地域をPRしたカレンダーとして最優秀賞を受賞し多くの方々に喜んでいただきました。
その中でも、特に印象的であったのは、絵本「伊達秀宗公物語〜政宗との親子の絆」の制作です。未来を担う子供たちに宇和島の素晴らしい歴史や文化を知ってほしい、そして長く継がれていくものを残していきたいとの想いで制作しました。宇和島信用金庫様のご支援により、計1万冊の絵本が地域の小中学校や幼稚園、公民館、図書館などに無料配布されました。市内外から問合せや感想の声が届く等、こどもから大人まで予想を超える大反響でした。宇和島の新たな魅力を知り、地元に誇りを持つ機会につながったのではないかと思います。そして、宇和島信用金庫様が民間企業として地域にご尽力された功績の市民や民間事業者様への影響は大変大きく、宇和島伊達400年祭が一過性のものでなく、人々の心に様々に残って行く文化につながっていったのではないでしょうか。
伊達秀宗公物語の時代は400年前のことですが、親子の絆や人生への教えは、今も昔も変わらず、大切にしなければならないことを歴史から改めて実感することができます。絵本の反響により、現在第二作を制作しており、来年春頃に発表を予定しています。次は幕末明治の時代のお話ですが、歴史資料を調べる中で、当時の三世代家族写真が残っておりました。家族の温かさ、人との絆の深さは、いつの時代でも心豊かに生きる上でもっとも大切な基本であると教えられた気がします。
私も、家族や社員、クライアントの方々、地元の方々など自分自身に関わる方が、みんなが家族のように大切に思いやり、それぞれに楽しそうに、幸せそうに過ごしている。そのような集合写真がたくさん撮れることを夢見て、いろいろな活動に取り組んでいきたいと思っています。
愛媛県宇和島市生まれ。立命館大学経済学部卒業、立命館大学院経営学研究科修了。2003年~2009年 PAOS(株式会社中西元男事務所)にてプランナーとして従事。2010年4月COTOVIA(株式会社コトヴィア)創業。企業経営やイメージマーケエティングの視点からの感性デザインコンサルティングを行う。2014年4月SORAYUI(株式会社そらゆい)を創業。日本の文化や精神性を背景にした商品企画開発・情報発信を行う。
COTOVIA
http://www.cotovia.net
SORAYUI
http://www.sorayui.jp