クリナップ株式会社
常務執行役員
経営改革委員会委員長
兼 経営企画部担当
クリナップの常務執行役員として活躍されている藤原さん。長らく商品開発リーダーとして数々のヒット商品を出してきましたが、現在は経営企画や改革プロジェクトなど全社的な業務を担当されています。今回は同社の主力商品(システムキッチン)であるクリンレディをはじめヒット商品を生み出してきた秘訣やMOT(技術経営大学院)のことについてお聞きしました。
開発者として意識していたことは「非満さがし」
私は入社してから25 年間、商品開発の仕事をしてきました。開発者として意識してきたことは「お客様が気付いていない困り事をいかに見つけだすか?」ということ。よく商品開発というと「いかに斬新なアイデアを考えるか?」に重点が置かれます。でも私の場合、すぐに新しいアイデアを考えることはしません。それよりも「お客様があきらめていた困り事は何か?」を探すことから始めます。
当社では、それを「非満(ひまん)」と呼び、「不満にもなっていないニーズ」と定義しています。ただ「非満」をみつけるのは簡単なことではありません。そもそも気付いていないので質問をしても出てこないからです。そこで、お客様の行動や実態を徹底的に観察し、そこから隠れたニーズをあぶり出していきます。
「おや、まぁ、へー」の3段活用で感動を伝える
非満を探し出した後は、その解決策を展開していきます。その際「いかにインパクトを演出できるか?」を意識します。これが結果的にアイデアの斬新さに繋がります。「なぜ、この商品を買う必要があるのか?」そのシナリオを作り、お客様に実演します。
その時のポイントは「おや、まぁ、へーの3 段活用」をシナリオに含ませること。まず「こういった事に困っていませんか?」と提示して、「おや?言われてみれば」と気づいてもらう。次に理論的な説明をして、「まぁ、なるほど!」と解決策に納得してもらう。最後に実物を見せて「これで困り事を解決できます」と実演する。すると「へー、すごい!!」と感動してもらえます。
これが上手くはまると、営業スタッフが商品をお客様に説明するのが楽しくなり、商品がどんどん広がっていくのです。
「クリンレディ」のケース紹介
この例として「クリンレディ」というシステムキッチンのフルモデルチェンジ案件を簡単にご紹介します。(詳しくは「アイデアは才能では生まれない」(美崎栄一郎編著、日本経済新聞出版社)を参照)
この商品は当社の主力商品でしたが、他社との差別化ができず苦戦していました。そこで、「一目見てクリンレディとわかるデザインにする」との目標を立て開発をスタート。
まず行ったのが非満さがしのための「収納実態調査」。150 の家庭から5000 枚のキッチンの写真を集めて細部を観察。すると缶ビールやカセットコンロが収納できず、床に置かれていているキッチンを見つけました。ここから「そのようなモノまで全部キッチンに収納できれば…」という「非満」が浮かび上がりました。
次に解決策。インパクトの演出も含め、これまで収納として活用していなかったキッチンの足元に引き出し式の収納スペースを設けました。これにより、お客様が「ここは何?」と不思議そうに引き出すと、缶ビールやコンロがきれいに収まっている。今まで見たことのない光景に「へー、すごい!!」と感動していただけました。非満をさがし、インパクトを演出した結果です。
MOTで得たものは「社外の人脈」と「彼等からもらう刺激」
例えば開発時代の販促関連もそうですし、現在では経営全般ということで、その業務範囲はこれまでの自分の経験や専門外に及んできます。その時に役に立っているのがMOT時代にできた人脈です。
例えば自分の専門外のことは、その分野の専門家に相談することもあります。いざという時に利害関係がなく親身に相談にのってくれるプロが社外にいるのは助かっています。
さらに彼等の仕事での活躍ぶりを見ていると「自分も!」という気持ちになってきます。社外に心のライバルがいるというのはとても貴重だと思います。
将来の夢は「沖縄で暮らすこと」
学生の頃から沖縄の自然や歴史への憧れや興味があり、旅行ではよく行きますが、いつかは住みたいと思い続けています。まだ今の仕事があるのでかなり先の話になりますが、軽トラックで島の隅々まで周り沖縄の全てを見てみたい。そんな夢をいつか実現させたいと思っています。
1989年東京造形大学造形学部デザイン学科卒業後、クリナップ入社。キッチン、バス、洗面化粧台等のデザインならびに商品開発に従事。1999年システムキッチン「クリンレディ」開発プロジェクトリーダー担当。2010年執行役員、2012年開発本部本部長、2015年より現職。2006年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程(MOT)修了。著書に「経験価値ものづくり」(長沢伸也編著、山本典弘共著、日科技連出版社)がある。