Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.043 柳川舞さん

2016/07/28 (木)
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柳川舞さん

Air Aroma Japan株式会社
代表取締役

企業ブランディングの一環として「香りマーケティング」の導入をサポートし、五感を使った空間づくりなどのソリューションを提供するAir Aroma Japanの代表を務める柳川さん。多くのグローバル企業を顧客に持ち順調にビジネスを拡大する中、大学院で感性工学の研究をして学会発表で受賞したり、プロボクサーとして試合に出場した経験を持つなど多方面で活躍されています。今回は、ご自身のキャリアについてお話しいただきました。

オーストラリア総領事館で働きつつプロボクサーとなる

私は、高校卒業後にオーストラリアに渡り、現地の大学に入りました。「将来は映画監督になってドキュメンタリー作品をつくりたい」と思っていましたが、それで食べていくのは難しい。そこで方向転換をし、「マーケティングのメジャーをとろう」と大学院(master of commerce)に入学しました。学費を捻出しないといけないので、シドニーフィッシュマーケット内の日経企業に「経理とマーケティングの仕事をするから学費を出して欲しい」と掛け合い、了承をもらう。それから、昼間はフィッシュマーケットで働き、魚くさいまま夜は大学院で勉強する日々を送りました。

30歳のとき日本に帰国し、福岡にあるオーストラリア総領事館で商務官として仕事をすることになりました。ここでは、オーストラリア企業の誘致や貿易促進のため日本のバイヤーを現地に連れていくことなどをしていました。それと並行してボクシングを始めました。きっかけは、人生の価値観を大きくシフトさせるある出来事が起こったこと。どうしても怒りの感情が消せない。気晴らしをしてもすぐにそのことを思い出してしまう。エアロビくらいでは収まらない。「いっそのこと殴るのはどうかな?」と思い、ボクシングジムに通いました。

柳川さん1

ジムのトレーナーは、パンチドランカー気味のおじいさんで数がカウントできない。練習を10ラウンドしても、「まだ4ラウンド」と言って、結局20ラウンドくらいすることになる。過酷な練習できつかったですが、8ヶ月でプロのライセンスを取得できました。プロになって2戦目の相手が風神ライカさん。当時、3階級を制覇していた世界チャンピオン。「チャンピオンと戦う経験も悪くない」と思っていましたが、いざ対戦すると半殺しの目にあいました。ボクシングの練習は正直きついです。でも、何もかも忘れて目の前のことに集中する。そして、トレーニングの合間に少し隙間の時間があると楽になる。この感覚が気持ちいい。究極にマズイことが起きたら、ボクシングをすることをお勧めします。

「どうせならメインの東京で仕事をしたい」と思い、東京のオーストラリア大使館で働くことにしました。ただ、当時は女子ボクシングの試合がほとんどない。キックボクシングはあったので、始めることにしました。いざ始めるとスタイルが全然違う。顔面にヒザ蹴りを食らう。このままでダメだと思い、タイのムエタイのジムに一人で行き、2週間修行をしてきました。その後、プロになり、5戦ほど試合をしました。働きながら試合をしていたので、目を腫らした姿で現れると、周りの人から「DVにあっているの?」と心配されます。なので、はじめに「キックボクシングをしている」と言うんです。それもあり、私はセクハラにあったことは一度もありません。

柳川さん2

大使館では、グローバル展開を目指す企業に対して共同で新規事業の開発などを行うプロジェクトを担当しました。新規ビジネスは、何もないところから自分のつくりたい世界をつくっていくという意味では映画みたいなものだと思います。もともと映画監督になりたいと思っていたこともあり、独立して、グローバル企業向けに新規事業の立ち上げを支援するビジネスを始めました。それと並行して、総領事館時代から付き合いのあったAir Aroma社の日本展開に携わることになりました。ただ、いきなり問題が発生します。

Air_Aroma HP

香りをはじめ五感を使った空間デザインに携わる

Air Aroma社は、「香り」という観点から世界80カ国の企業ブランディングに携わってきました。企業ブランディングの一環として「香りマーケティング」の導入をサポートし、ソリューションを提供するパイオニア企業です。具体的には、アロマディフューザー・フレグランスの輸入販売、香りブランディング、空間プロデュース、香り製品の新規開発マネージメント、香りと環境の感性デザイン研究などを行っています。

P1

ただ、日本の代理店が同じような商品を自分たちでつくって販売を始め、Air Aroma社の日本の顧客を全部取ってしまうという事態が起こったのです。日本市場はいきなり顧客がゼロになったので、日本から撤退して中国などに拠点を移すことも検討されましたが、結局、代理店ではなく子会社をつくり立て直すことになりました。そして、私が日本法人であるAir Aroma Japanの社長につき、新たなスタートを切ることになりました。

私にはファイター気質があるので、例の代理店の裏切り行為について「許せない!成敗しよう!」そんな想いがありました。そこで、元の顧客に自分たちの方に正当性があると説明に行き、戻ってきてもらおうと思いました。でも、顧客から「どちらを選ぶかは客の勝手でしょ。こちらはいい商品を安く買えればいい。どっちが正しいかなんて興味がない」と言われました。そのとき、「相手との競争ではないんだ。自分たちが良いと思えるものをつくろう」と決めました。

柳川さん3

ただ、顧客はゼロのまま。給料が払えない。家賃が払えない。そのたびに本社から仕送りしてもらう。自分は半年無給で、寝ずに営業に行く。生きた心地がしない。吐き気が出る。でも、必死に動いている内に、「やってダメだったら潰れてもいいや。また一からやり直せばいい」そう思えるようになりました。そうなると、こっちの勝ち。図太さが出てくるようになりました。

当初は、営業していても必死感が満載で、相手もそれを見抜いて引くことが多かった。でも、「いらないなら買わなくていいですよ」と、余裕を見せる。本当は喉から手が出るほど顧客が欲しいのに、いらないフリをする。当初はつらくても訓練するとできるようになる。徐々に焦りのオーラが消え、ゆとりが出せるようになりました。また、当初は「置き逃げ」と称して、商品を無料で提供して置いておく。すると、その香りに顧客が慣れてくると、商品を外せなくなる。当社と正式に契約を結び、そのまま置いておいてもらうことなどもしていました。

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営業先は、自分たちが商品をおいてもらいたいと思うところに絞っていました。例えば、外資系の五つ星ホテルです。そこでは、私たちの理念などを話します。例えば、ファッション感覚で香りのビジネスをしているわけでなく、香りを使って幸せになる、生活の質を上げていくことを目指している。また、単にアロマとディフューザーを売ることではなく、「香りの空間」を一緒につくっていくこと、つまり「香りのブランディング」のコンサルティングをしている。そのために香りの研究もしている。「香りの違いによってどのような気分になるのか?」といったことを検証している。このような話をしていく内に信頼関係ができ、外資系のホテルをはじめ多くのグローバル企業を顧客にすることができ、自社のブランドを取り戻すことができました。

私は、香りは感覚的なものというより、サイエンスだと思っています。そこで、広島国際大学大学院で感性工学について研究することにしました。感性工学は、車などの商品開発で活かされています。例えば、このデザインが心理的にどのような影響を与えるのか?あるいは気分がいいエンジン音とはどういうものか?そういうことを研究するものです。私は、空間の価値、「居心地のいい空間はどういうものか?」など見えないものを可視化することについて研究しました。そして、学会で感性工学を適応した空間価値の可視化について研究した成果を発表したところ、Outstanding Paper Awardを受賞することができました。

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日本の感性を日本発で世界に向けて発信する

当社の強みは、香りだけでなく五感を使った空間づくりのコンサルティング力です。「香りをはじめとした五感を使ってどのようにいい空間をつくるか?」これを実現させる力なので、当社の資産は社員です。機械もオイルもコピーはできますが、人はそうはいかない。ただ、この領域はまだ新しい分野なので、スキルを持った人がいない。なので、素直で学ぶ意欲の高い人を集め、一からトレーニングをしてスキルを上げていく取り組みをしています。

例えば、社員をMBAや香料の学校に行かせたりしています。また、空間づくりの勉強や感性を磨くため、美術館や演劇を見にいく場合は、補助を出しています。コンサルティングでは、コミュニケーションのスキルも大事ですが、その人から醸し出される感性や感覚といった人間力の方がもっと大事です。そのための投資は惜しみません。

それ以外でも会社のトレーニングでは、ダンスや演劇などを取り入れています。それは、いろいろな個性を育てたいと思っているから。社内にいろいろな個性を持つ人がいないと、いろいろなニーズに対応できないし、新しいものも生み出せない。アイドルを育てるように、一人一人の個性を大事に磨き上げるサポートをしています。その一つとして、半年ごとに社員のキャリアデザインを一緒に考えることもしています。例えば、将来、農業をやりたいという社員がいます。それには、こういうスキルが必要だよねという話をしながら、今年の目標の設定もする。社員に寄り添いながら、お互いに信頼関係を築くことが大事だと思っています。

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3年前に五感の専門家を集結してKANSEI PROJECTS COMMITTEEを設立しました。それに大学院で五感の研究もしてきました。それは、世の中にもっと心地いい空間や時間を増やしたい。そうすればもっと幸せで平和な世の中になる。そう考えているからです。日本人は世界的に見ても精神性が高いと言われています。ただ、五感の研究の分野では海外の方が進んでいます。実は、ヨーロッパの大学院のPh.D.(博士課程)で感性工学の研究をすることを密かに考えているんです。そこで研究した成果を国際学会で発表する。日本の感性を日本発で世界に向けて発信する。それを自分だけでなく、みんなを巻き込んでやりたいと思っています。

ただ、外国人と一緒に研究したり、プレゼンしたりするにはエネルギーがいります。気力を上げる必要がある。そんなこともあり、8年ほど遠ざかっていたボクシングを3ヶ月前から再開しました。当社を設立してから、仕事がいわば場外乱闘の連続で、それ以外に闘争心が持てませんでした。ただ、ボクシングをしないと、平和なおじさんみたいになっていったんです。それでは世界で戦えない。攻撃モードに入るため再開しました。

でも、やることは五感を使った研究を通して世の中を幸せにしていくことです。本気で、アートや香りの力で世の中を救えると考えています。そんな馬鹿げたことを真剣に考え、行動に移す人が一人くらいいてもいいのかなと。そのため、「これから世界に攻撃をしかける」そんな戦闘モードに入っています。

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プロフィール

下関市出身。メルボルン大学文学部卒業。シドニー大学大学院 経済学部 修了。日本に帰国後、オーストラリア大使館の商務部で貿易促進業務に従事。2007年に独立し、株式会社音生力(ねきりき)というアート・エンタテインメントのマーケティング会社を設立。2011年に香りのブランディングのグローバルリーダーであるエアアロマ社の日本法人の代表取締役を兼任。その後、五感の要素を科学的に検証し、空間の価値を向上する専門家チームKANSEI PROJECTS COMMITTEEをビクターエンタテインメント社らと設立し、広島国際大学大学院 感性デザイン学科を修了。アートとサイエンスを融合させた五感の空間作りに取り組んでいる。

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