Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.035 松尾成美さん

2016/04/22 (金)
このエントリーをはてなブックマークに追加

松尾成美さん

松尾成美写真事務所
写真家

歌手や俳優、モデルや政治家など5,000名以上の方を撮影してきた写真家の松尾さん。これまでに福山雅治さん、嵐の松本潤さん、妻夫木聡さん、川島なお美さん、常盤貴子さん、桐島カレンさん、安倍晋三首相などの撮影を担当される一方、一般の方を対象にした講座をはじめるなど、多方面でご活躍されています。今回は、ご自身のキャリアや将来の夢についてお話しいただきました。

写真家として歌手、俳優、女優、政治家の撮影をする

私は、実家が佐世保で写真館を経営していたため、将来は家業を継ぐつもりでした。写真のことを学びに東京の専門学校に入りましたが、芸術コースを選択したため、撮影の現場のことは全くわからないまま。「身近でプロのスキルを学ぼう」と卒業後はプロカメラマンが撮影で利用するレンタルスタジオのアシスタントとして働き始めました。でも、この仕事は、機材のセッティングなどの作業もあり、3K(きつい、汚ない、危険)と言われ、朝から晩まで諸々の仕事があり、休日もない。「人間の働く場所ではないな」と思いながらも必死でついていきました。

そのうちに、ニューヨークの著名な写真家であるリチャード・アベドン氏に師事していたカメラマンの泉純さんから声をかけてもらい、アシスタントになりました。泉先生からは、「いつかフリーになるんだろ?それなら作品が必要だよ」と言われてました。そこで、アシスタントの仕事と並行して自分の作品を撮ることを開始。ただ、当時、給料はほぼ家賃に消えていたので、バイトを掛け持ちする日々。「いかにおカネをかけずにいい作品を撮るか?」ひたすら考えました。

幸い、先生からいろいろな方をご紹介いただき、撮影した写真を相手にあげることを条件に、衣装からスタジオ、外人モデルにヘアメイクさんまで無料で手伝ってもらうことができました。それもすべて一級品。素材がいいので、いいものがドンドン撮れる。いい作品がたまっていったので、それを見せたらアシスタントにも関わらず直接仕事の依頼が来るようになりました。初めての仕事は、雑誌広告用の洋服の撮影で、その写真は女性雑誌ELLEの見開きで掲載されました。それをアートディレクターに見せたら、今度はまた別の仕事が来るようになり、先生から「そろそろ出なさい」と言われ、3年目にフリーになりました。

松尾さん2

フリーになってからは、主にプロの女性モデルを中心に撮影の仕事をしていました。プロが相手なので、洋服の着こなしもきまってる。ヘアメイクもバッチリ。こちらが、「こんな感じで」とアバウトに言うだけで、モデルが勝手に表情や仕草をきめてくれる。すべてが完璧に仕上げられているので、いいものが撮れて当たり前でした。お陰様で、その後、歌手や女優、俳優をはじめ安倍晋三首相など政治家の方まで撮影する機会に恵まれました。

例えば、歌手の福山雅治さんを撮影したときのこと。福山さんは自分のカッコイイ部分をよ〜くわかっています。でも、撮影のときは、わざと三枚目ぶって周りを和ませようとしていました。あと、嵐の松本潤さんのときは、部屋の中での撮影というシチュエーションだったので、担当編集者が「ジャケットを脱いでください」と言ったら、スタイリストが「これでコーデネートが成立しているのでジャケットは脱がせたくない」と言いだし、なかなか撮影に入れない。「困ったな」と思っていたら、松本潤さんが「じゃあ、靴下を脱ぐよ。それなら部屋っぽいでしょ」とありがたいことを言ってくれたのです。それにはスタイリストも何も言えません。周りの状況をいち早く理解してくれて助け船を出してくれたことを今でも覚えています。

松尾成美作品01

おごりから一般女性の撮影ではどん底を経験

このように、フリーになってずっと、モデルや女優、俳優などプロを相手に仕事をしていました。ただ、6年ほど前に、泉先生から「成人式の前撮りの撮影をして欲しい」との依頼がありました。ある着物屋チェーンで振り袖を購入もしくはレンタルすると、写真の撮影をしてもらえるというサービスがあるので、それを担当して欲しいとのこと。初めて一般女性を相手にした仕事。しかも、毎週土日は一日中撮影で、それが一年間続き、年間に1000人以上を撮るというハードワーク。でも、「これまで23年やってきたんだから、撮れないわけがない」そう思って受けましたが、これが試練の始まりでした。

これまでの撮影相手と違って、一般の人は全然前向きじゃないんです。ほとんどの子が親に連れられて、仕方なく来ている。撮影現場で「はい、笑ってくださーい」と言っても、「私、カメラの前では笑えないんです」とか「写真キライっす」という子ばかり。「これは本気で彼女らに向き合わないといいものが撮れない」と、必死に撮影に取り組み始めました。

そんなとき、着物屋さんの朝礼で「うちの店が売上最下位だったぞ!」と店長から怒鳴られました。そこでは、着物を買ったりレンタルすれば3枚はサービスでプレゼントなのですが、「もっと欲しい」という場合は有料で写真を販売していましたが、その売上が最下位だったんです。ということは、お客さんから「お金を出してまで買いたい写真がない」との評価でした。怒鳴られたときは、正直、「え、あたしのせい?」と思いました。

いいものを撮るには、写真家だけでなく、着付けやヘアメイクさん、それにモニター担当さんとのチームワークが必要ですが、この店ではそれが全くない。それに前年度の成績は別のカメラマンが撮影したのに頭ごなしに怒鳴られたことに、「あ、サラリーマンって、こんな理不尽な世界で仕事をしてるんだ。やってられない」と思いました。でも、先生からの依頼だからやめられない。そこで、「ここからでも学ぶことが必ずあるはず。それをみつけるまではやろう!」と気持ちを切り替えました。

松尾さん3

正直、最初の頃は「私が撮れば成績は上がる」という、おごりがありました。でも、なかなかすぐに数字には結びつかない。上から目線でものを見ているところがあったのだと思います。それからは、「相手が前向きじゃないなら、こちらがテンションを上げて場を盛り上げよう!ハートをオープンにしていこう!」と考え方を改めました。そんな気持ちで撮っていく内に、だんだんと相手にスイッチが入ってくることがわかりました。それを見て、「あ、この子らも、こんな素敵な笑顔や表情ができるんだ!写真で変われるんだ!」と気付きました。

自分のことをかわいくないと思って、自分の写真を見るのを嫌がっていた子も、写真を見て、「あ、かわいい」!と自己承認ができるようになる。「写真でみんなにエールを送れるんだ!」と初めて写真の持つ力を感じました。さらに、家族との写真を撮ると、家族から「一生の思い出になりました」と言ってもらえる。それからは、「ここを家族の絆を深める場にしよう!」と決め、「家族が仲良くなりますように」と祈りながら撮影をしていました。

これを続けていく内に、お客さんから感謝の声がたくさん届くようになりました。お客さんたちの喜ぶ声をチームのメンバーに伝えると、チームの輪ができるようになりました。お客さんから褒められると、みんなやる気になって、「いいものをつくろう!」とこちら側のスイッチも入りました。これまでは、お互いの仕事に無関心だったのに、撮影会場に着付けやヘアメイクの人が来て応援をしてくれる。チームワークが目に見えて良くなりました。

あるとき、来店した着物屋チェーンの専務が「この店はトップを狙えるよ」と言うほどまでに。実際、3年目に2位になり、4年目と5年目にはトップになりました。まさかの最下位、どん底からの大躍進です。そのとき、「自分の気持ちが変われば周りも変わる。メンタルの部分がとっても大事なんだ」ということを学びました。

松尾さん4

一人でも多くの方の最高の笑顔の写真を撮りたい

プロの写真家として大事にしていることは、妥協しない姿勢。どんな状況でも、最善の仕事をするということ。あと、撮影はチームでの仕事なので、チームでいかにいい仕事をするか?という視点も大切にしています。自分だけの目線で見ていると、どうしても抜けが出るので、周りからどんどんフィードバックをもらう。それは、いい面だけでなく悪い面も。

特に、悪いところを指摘してもらわないといいものができないので、笑顔でいたり、相手にオープンに接するといったことをして、なるべく言いやすい場をつくるように心掛けています。あと、自分からも相手の良くない点は伝えています。そのときは、単に「ダメ」というのではなく、「こうした方がもっと良くなるのでは?」といった代案を伝えるようにしています。

松尾さん1

フリーになってから29年が経ちました。以前は、「仕事が来なくなったらどうしよう?」と不安に思うこともありました。でも、今は、「そんなこと考えても仕方ない。29年やってこれたんだから、これからも絶対どうにかなる!」と考えられるようになりました。実際、着物屋チェーンの仕事を5年した後、やめる決断をするときも不安はありました。でも、思い切ってやめたところ、すぐ別の仕事のオファーが来ました。「空けると、そこを埋めるものが必ず来る」と感じました。

現在は、お客さんからの依頼があって撮影をする商業ベースの仕事をしていますが、将来的には自分が撮りたい写真を撮って発信するアーティスト(表現者)の仕事もしてみたいと思っています。自分が感じたものを感じたままに届けたい。見ているだけで、心が動くような、そんな写真を撮りたいと思っています。

松尾成美作品02

あと、2013年からエンパワーメントプロデューサーのひぐちまりさんと、「選ばれる人のための女優スイッチ講座」を始めました。これは、先の成人式前の一般女性を撮影する仕事をしていたとき、「写真でエールを送れるんだ!」そう感じたことを「もっと多くの人に知ってもらいたい」と思って始めました。どんな人にも笑顔になる、楽しくワクワク感じるスイッチがあって、その方法を知って、活用すれば、幸せに生きられる。「自分が笑顔になれば、それは自分だけでなく、他人への最高のギフトになる」そんなことを伝えたくて始めました。

実際、「私、こんな素敵な表情できるんだ!」「写真を撮られるのがこんなに楽しいなんて初めて!」と言われる方が多く、いったんスイッチが入ると、みなさん表情が劇的に変わります。そんな姿を見て、「この写真が、みんなの人生を変えていくんだ」と思うと、写真を撮りながら思わず泣けてきます。今は東京だけで開講していますが、全国でやっていきたいと思っています。そして、一人でも多くの方の最高の笑顔の写真を撮っていきたい。それが今の私の夢です。

松尾さん5

プロフィール

公益法人日本広告写真家協会会員 正会員。朝日広告賞奨励賞 受賞。
東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)を卒業後、スタジオマンを経て泉純氏に師事後フリーランスへ。フリーのフォトグラファーとして29年になる。これまでに安倍晋三、高市早苗、福山雅治、松本潤、小栗旬、藤原竜也、瑛太、妻夫木聡、伊藤英明、大泉洋、北村一輝、宮沢りえ、川島なお美、常盤貴子、桐島カレン、松下由樹など政治家、歌手、俳優、女優、モデルなど5,000名以上を撮影。
雑誌(クロワッサン、アンアン、ELLE、フィガロなど)、書籍(七十二候の料理帖、心と体キレイの法則など)、広告、政治家のポスター、CDジャケットなどで人物、イメージ商品、料理などの撮影を担当。ハウステンボス、ハウジングエージェンシー、デジタルカメラマガジンで講師を務める。テレビ東京「とことんハテナ」、フジテレビ「スマイルエコ」に出演。2013年より「女優スイッチ講座」、2015年より「フォトセミナー」を開始。

このエントリーをはてなブックマークに追加

ピックアップインタビュー

2017/05/10 (水) vol.055 北原照久さん

株式会社トーイズ 代表取締役

2017/04/20 (木) vol.054 山崎大地さん

株式会社ASTRAX 代表取締役社長 民間宇宙飛行士

2017/02/15 (水) vol.052 小城武彦さん

株式会社日本人材機構 代表取締役社長

⇑ PAGE TOP