Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.030 滝村雅晴さん

2016/02/24 (水)
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滝村雅晴さん

株式会社ビストロパパ
代表取締役

「パパ料理を通して家庭の幸せを創造する」ことをミッションに掲げる株式会社ビストロパパを創業した滝村さん。日本で唯一の「パパ料理研究家」として、テレビやラジオなどのメディアや料理教室などのイベント、講演などを通じて父親が家庭のためにつくる「パパ料理」の普及に務められています。今回は、起業した経緯やワークライフ&ソーシャルバランス、リーダーに求められることなどをお聞きしました。

仕事一筋からパパ料理研究家へ

私は大学卒業後、新卒採用のPR会社に入社し、大学向けにPRやコンサルティングを行う仕事をしていました。そのとき、デジタルクリエイターを養成するデジタルハリウッド社の創業者である桜田勝久さんから、「今度、産学協同でマルチメディアスクールをやるけどこない?」と誘われました。当時は、採用活動も紙媒体が中心で、ネットも普及していない時代。また、自分自身にもデジタル系のバックグラウンドはありません。でも、「新しい産業を興そう!」という熱意に打たれ、同社のスタートアップに参画することにしました。

入社してからは、主に広報、宣伝、PR、ブランディングの仕事をしていました。平日は終電ギリギリまで、土日も休まずに働く、まさに年中無休、仕事一筋の生活でした。それでも、「自分たちは新しい未来を創っている」「新しい時代を担う人材を育てている」という実感から全然苦でなく、むしろ楽しかったです。ただ、その仕事漬けの生活も子供が生まれたことでガラリと変わりました。

それまでは、よく外食をしていましたが、子供がいると外に食べに行けません。ならば「外で食べる食事を自分でつくってみよう」と試しにつくってみました。それまでまともに料理をした経験なんてありません。楽譜とピアノがあっても弾けないように、食材とレシピがあっても経験がないと美味しくつくれないと思っていたからです。

でも、知人から教えてもらった料理研究家の行正り香さんのレシピ本を見て、その通りにつくったら驚くほど美味しかったんです。鯛のカルパッチョだったんですが、自分でもビックリしました。「設計図通りにつくったらできる!これはプラモデルと同じだ!」と気づきました。それ以来、料理にはまり、毎週末レシピ通りに料理をつくっていきました。

滝村②

大学時代にバイクを買ったとき自由を感じました。バイクさえあれば、いつでもどこでも行きたいところに行けるからです。自分で料理をするようになって、同じような自由を感じました。今度は、いつでも食べられるという自由です。それは素晴らしいことだと思いました。そんなとき、ある事件が起こります。

友人を招いてホームパーティーをしていたときのこと。私はみんなに料理を振る舞っていました。友人から「美味しいね」と言われ、自分でも大満足でパーティーは終わり、幸福感に浸りながらベッドに入りました。でも、翌朝起きると、妻の方はなぜか機嫌が悪いんです。よくよく聴いてみると、パーティーの後、何時間もかけて妻一人で料理の後片付けをしていたとのこと。そのとき、「あ、自分は人に喜ばれてないことをしていた」と初めて気づきました。

それまでは、料理をしている自分は家族のためにいいことをしていると思っていました。ただ、家族がいるのに、自分がつくりたい料理しかつくってこなかった。それは、言ってみれば「男の趣味の料理」。完全に自己満足のものでした。でも、料理は、本来は人のためにつくるもの。「これからは妻や子供のため、家庭のために料理をつくろう」と決めました。そして、自分だけのためにつくる「男の料理」と区別するため、「パパ料理」と名付けました。ここから、日本初の「パパ料理研究家」として活動を始めていくことになります。

滝村③

ミッションアウトして、ビジョンインする

料理を始めた頃、ちょうど世の中でブログが盛り上がっていました。デジタルの仕事をしていた関係もあり、「自分でもブログを始めてみよう」と書き始めました。テーマは、パパ料理です。毎週末に8つくらいのレシピで料理をつくっていたので、一週間で8本のブログが書けます。「これなら毎日書ける!」と思い、それから毎日書いています。ちなみに、これまでに9年間、のべ3500日以上、毎日このテーマでブログを書いています。

ブログを書き始めて3年経った頃、パパ料理のことを、もっと発信することで社会を変えていくことが自分の使命だと感じるようになりました。そこで会社を辞め、起業することにしました。社名は、当時、男が料理をする「ビストロスマップ」がテレビで人気だったこともあり、「クッキングパパ」という言葉を組み合わせて「株式会社ビストロパパ」としました。

ただ、起業するときは、みんなから「本当に大丈夫?」と心配されました。パパ料理研究家なんて聞いたことないわけですから当然と言えば当然です。でも、私には確信がありました。「これからは、介護や育児、共働き世帯が増えるので男性が家庭のために料理をつくる時代が来る」と。「それも、そんな先の話ではない」と。そして、「その文化を自分がつくっていこう!」と決めました。

滝村④

マーケティングの世界では、製品を重視する「プロダクトアウト」よりも、顧客ニーズを重視する「マーケットイン」の考えが主流になっています。ただ、その結果、「やたらと安いものが出回る」「やたらと甘いものばかりが出てくる」といった弊害が起こりました。目の前の顧客のニーズを聞き過ぎた結果です。

そうではなく、「これからは、こういう考えが世の中で大事になりますよ」という想いとかミッションを伝えていく「ミッションアウト」が重要になると考えています。そして、それに共感する人が出てきて、新しい世の中がつくられていく、いわば「ビジョンイン」が起こるわけです。

ちなみに当社は、「パパ料理を通して、家庭の幸せを創造する」をミッションに掲げています。それに基づき、「おやじの味を文化にする」「日本人が世界で一番料理好きの国民になる」などのビジョンを掲げています。ビジョンは時代と共に変わっていくと思いますが、根っこのミッションは変えずに続けていくつもりです。

滝村⑤

ワークライフ&ソーシャルバランス

起業する前に、ある方からの誘いで父親の子育て支援をするNPO「ファザーリング・ジャパン」の活動に参加しました。ここのメンバーは、仕事をしながら子育てだけでなく、PTA活動も精力的に行っていました。仕事や家庭だけでなく、地域社会の活動をしていて、みんなイキイキとしている。その姿を見て刺激を受けました。そのとき、ライフワークバランスだけでは不十分で、それにソーシャルな活動も加えた「ワークライフ&ソーシャルバランス」の考えが大事だと気づきました。

パパ料理についても、それまでは私一人だけで活動をしてきました。でも、一人でできることには限界があります。幸いこれまでに多くの情報を発信してきたことで、同じ想いを持つ仲間が少しずつ増えてきていました。そこで、みんなでパパ料理を広める活動をしていこうと「日本パパ料理協会」を昨年立ち上げました。今では90名を超える仲間(協会では飯士(はんし)と名付けています)が参加し、世の中に広める活動をしています。

滝村⑥

また、今年から「47fish(ヨンナナフィッシュ)」という活動も始めました。これは、47都道府県の魚にこだわる、家庭内魚食推進プロジェクトです。魚や魚料理、郷土料理、地方の歴史について教えてくれるパートナーがいますので、そんな仲間や、伝えたい魚、商品、料理などを紹介していく予定です。

このように仲間と組むことで実現できる世界(ビジョン)を広げていくことができると考えています。前述の通り、これからも自分のミッションが変わることはありませんが、ソーシャルな活動を行うことを通して新しいビジョンをつくっていきたいと思っています。

滝村⑦

「創職」がこれからのリーダーに求められること

デジタルハリウッドに勤めていたとき、創業者で現デジタルハリウッド大学の杉山学長が「あと何十年か、何百年かすると、歴史家たちがあのときがデジタル革命の始まりだったと言うだろう。今はそういうときだ」ということをおっしゃっていました。「我々の手で、新しい仕事をつくり、人を育て、新しい産業を興そう!」とも話されていました。それもあり、「自分たちは常に時代の半歩先を歩こう」という気概を持って仕事をしていました。

リーダーになると、「ああすべきだ」「こうした方がいい」と人を変えさせることに躍起になる人がいます。でも、人から注意をされて、気持ちよく変えようという人はいないはずです。「自分は変えられるけど、相手は変えられない」「でも、自分が変われば、それで相手を変えられるかもしれない」私はこの姿勢を大切にしています。

リーダーは、自らが率先して変わったり、行動していくことが大事だと思っています。ときには、道なき道を先頭に立って進むことも必要です。ITなどの技術進歩により、機械やコンピューターに仕事が取って替わられ、多くの仕事が今後なくなることが想定されます。その一方、時代の変化により、これからの時代に適した新たな職業も生まれてくるはずです。

これからのリーダーに求められることは、「創職」だと思っています。時代の先を予測し、自らが行動を起こして、新しい仕事、そして新しい未来をつくっていく。これがリーダーの最も重要な仕事だと思っています。すべてはたった一人の本気からはじまります。私自身、「これからも時代の先を行く仕事をつくっていきたい」そう思って日々を過ごしています。

滝村⑧

プロフィール

滝村雅晴(たきむらまさはる)
1970年生まれ、立命館大学卒業後、採用PR会社を経て、95年2月デジタルハリウッド株式会社創立時に入社。広報・宣伝・PR・ブランディング業務を中心に従事。スクール事業部長兼執行役員/広報戦略部長等歴任。09年3月末退職。同年4月株式会社ビストロパパを設立。代表取締役に就任。日本で唯一の「パパ料理研究家」としてパパ料理の啓発活動を行う。内閣府食育推進会議 専門委員。大正大学客員教授。日本パパ料理協会 会長飯士。京都府出身。

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