Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.029 大崎真孝さん

2016/02/12 (金)
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大崎真孝さん

エヌビディア
日本代表 兼 米国本社副社長

パソコン用ゲームのグラフィックス、インダストリアルデザインや科学技術計算用ワークステーション、そしてスーパーコンピューター等ビジュアル・コンピューティングの領域で世界をリードするグローバル企業「エヌビディア(NVIDIA)」の日本代表を務める大崎さん。同社は、核となるGPUの技術をベースにスーパーコンピューター、人工知能を利用した自動車の自動運転の分野にも進出するなど先進的な取組みを進めています。今回は、グローバル企業のリーダーとして大切にしていることを中心にお話しいただきました。

多様性を受け入れ、自己主張をする

私は、大学卒業後、日本テキサス・インスツルメンツ株式会社(TI)に入社しました。7年間、大阪でエンジニアと営業を担当した後、ダラスにある米国本社のビジネスデベロップメント担当として3年働くことになりました。本社では、当然ながら社員も顧客も外国人ばかり。当初は英語ができず、誰も助けてくれない中、一人でもがき続ける日々が続きました。待っていても仕事はくれないので、自分から取りにいく。すると、米国には、自発的に動く人や努力をしている人には手を差し伸べる文化があり、次第にサポートを得られるようになったのです。米国社員の一員として対等な立場で世界中の企業へ売り込みに行ったり、様々な業務を人種の壁を越えて挑戦しました。大変でしたが、当時の米国人上司が日本法人に対して、正当な評価を報告してくれたことがわかり、本当にうれしかった思い出があります。

私は、つくづく人に恵まれていると思います。もちろん、仕事をする上では、いろいろなことは起こりますが、一度たりとも上司や部下、同僚を恨んだことはありません。 上司からの言葉は、例えば学ぶべきこと、反面教師とすべきこと、ある意味自身で仕分けをすることができます。でも、部下からのフィードバックは逃げられない。耳の痛いことを言われると精神的に消耗します。 しかしそれは「自分の鏡」と全身で受け止め、そこから多くを学びました。 そういった意味で、私は多くの優秀で個性的な部下達から多大な学びを得たといっても過言ではありません。

グローバル企業で働くリーダーとして大切にしていることは、多様性を受け入れた上で自己主張をすること。特に、グローバル企業は、様々な国の出身者から成り立っているので、いろいろな考えやコミュニケーションのスタイルがあります。例えば、欧州のある国の人と話をしていると、「Why? Why? Why?」と理由を徹底的に聞かれることが多いし、ある国の人とは「No! No! No!」から始まるパターンに良く遭遇します。 何でも「大丈夫だ」と楽天的な感じで始まることが多い傾向の国の人もいます。 ただ、その違いを認め合うことから始めないと、建設的な議論にならない。

日本人からすると、「え、なんで?」という非常識な意見でも、「うーん、それは新しい考えだな」と、まずは受け入れる。そして、客観的に見た上で、「自分はこう思う」と主張する。 もし言葉で通じなければ、表情や手ぶり、ホワイトボードなどを駆使しても良いのでは無いでしょうか?私はこれを魂で話をすると言っています。これは日本人同士でも同じで、様々な知恵を結集し、その多様性を強みにする。これがリーダーの大きな役割であると信じています。

大崎さん2

仕事の前に思いを書き出すルーティンを欠かさない

30代半ばで日本に帰国してから、「自分がこれまでやってきたことは正しかったのかな?」と考えるようになりました。 私は米国の企業に勤めてきましたが、一貫して「日本企業の応援団」として働いてきたつもりです。その観点から「自身がグローバルなビジネスの現場で経験して来たことをもっと学術的に探求してみたい」と思うようになりました。そこで、働きながら、首都大学東京大学院のMBAコースに通うことにしました。

問題意識が大きかったせいか、結局、MBAコースの2年に加え、博士後期課程で3年、合計5年も大学院で学びました。知識的な面では、クリステンセンの破壊的イノベーションやミンツバーグの創発的戦略の考えが役に立っています。前者については、特に現職であるエヌビディア(NVIDIA)自体が持続的にその技術を磨きながらも、産業構造を破壊するようなイノベーションを発信し続けている企業なので、毎日仕事の現場から多くの気づきを得ています。 また、行動しながら見えてくるものに基づいて戦略を構築していくという後者の考え方はまさにエヌビディアがこだわっているクラフトマンシップといっても過言ではないGPU技術力そのものです。 MBAでは、仕事をしながらも夜間や週末に勉強しようという成長意欲や志の高い仲間が集まってくる。そういったエネルギーを持った仲間と出会えたことも大きかったと思います。

私は会社に着いてから、パソコンを開く前に必ずやることが3つあります。まず一つ目は、いま心の中に思っていることをありのままに5行くらいノートに書き出すこと。例えば今日は、「本日は金曜日なので来週のプランを再点検して備える。仕事は人生であり、楽しまなければ良い結果につながらない。たくさん苦しんで突破する。目先の結果に左右されない」といったような日記みたいなことを書きました。次に、自分に足りないことやプリンシパルを3つ書きます。ちなみに今日は、「精密に分析して考察して客観的思考を持つ」、「部下の個性を活かす」、「常に先頭に立ってリスクをとる」といったことを書きました。そして最後に、本日のタスク、アクションアイテムを書き出します。

大崎さん3

この作業を毎朝20分くらいすることをルーティンとしています。一種の儀式みたいなものですが、書き出すことで頭の中が整理されますし、精神的に落ち着いた状態で仕事を始めることができる。また、リアクティブにならずに能動的に仕事を進めることもできる。あとは、事前の準備や主義を先に書いておくことで、何が来ても受け止められるようにもなる。この作業をすることで、そんなメリットがあります。

それとは別に、もう一つの手帳に自分のポリシーを書いています。例えば、「部下の弱みを指摘することが上司の仕事ではない。部下の個性を活かして一致団結させること、部下を解放することが上司の仕事」これは、マーカス・バッキンガムの言葉ですが、これからのリーダーは、よっぽどのカリスマでない限り、このスタイルでいくべきだと考えています。

そして、この手帳は、年に一度書き足すように決めていて、10年ほど続けています。例えば毎年、年末から正月にかけてナポレオンヒルの「思考は現実化する」を読むことにしています。面白いことに毎年、心に響く言葉が全然違う。その時々で悩んでいることが違うと、自分の中に飛び込んでくるセンテンスが違ってくるので、それを加えていっています。そして、悩んでいるとき、苦しんでいるときは、寝る前に手帳を読み、瞑想してから寝るようにしています。それで気持ちがリセットできるので、この手帳はまさに私の頭の栄養ドリンクになっています。

大崎さん手帳

自分自身の生き様を見せる

私は、常に何かに追われている感じがしています。立ち止まることが恐いし、何故か安住への恐怖心があって、いつも現状に満足できない、つまり走り続けたい性格なんです。前職でも、素晴らしい人たちに囲まれていたし、十分すぎる待遇にも満足はしていたのですが、「このままでいいのか?」という思いが徐々に湧いてきました。 私には身体に障害をもっている5歳の息子と、まだ2歳の幼い娘がいます。守らなければならない家族がいて、私自身も40代になり、安住を求めそうな自身に恐怖感を持ち始めていたのだと思います。「自分自身が守り続けたままでいいのか?自分も挑戦する姿を家族へ見せることが大事なのでは?」と言う気持になってしまいました。これが結局 「自分自身の生き様を見せよう」と、23年働いた前職からNVIDIAへ移った理由です。私の気持ちを察して後押ししてくれた妻に感謝しています。

大崎さんNVIDIA1

NVIDIAは、1993年創業で米国シリコンバレーに本社を置き、社員は1万人。売上は5,000億円を超えるNASDAQに上場する会社です。もともとはグラフィックスのゲーム会社からスタートし、パソコン用ゲームの市場では9割近いシェアがあります。またグラフィックス処理の特性を生かして、その技術は世界中の科学技術計算用のワークステーションやスーパーコンピューターにも採用されています。そして昨今は人工知能システムにおけるプラットフォームの世界的なリーダーです。

大崎さんNVIDIA2

ここ3年で人工知能によって、世界が変わります。古くは馬車が車や鉄道に置き換わったように。インターネットやEmailが出現したように。人工知能はそれら以上の産業革命を人々に経験させることになると確信しています。Google、Facebook、マイクロソフト等の世界的な企業がNVIDIAのプラットフォームを採用して人工知能技術の競争をしています。また、多くの自動車メーカーとも協業し人工知能を使った自動運転の実用化に向け多くの貢献をしており、その技術は様々なロボットにも採用され始めています。当社は、ゲームの会社からスタートして、スーパーコンピューター、そして人工知能へと、各領域で培った技術をベースに時代に合わせてビジネスモデルを変化させてきました。これからも破壊的なイノベーションを起こし続け、世界を豊かにする取り組みを積極的に実行します。

大崎さん4

プロフィール

1968年兵庫県で生を受け、ずっと関西で生まれ育ってきました。とても恥ずかしい話ですが、大学時代はアルバイトとサーフィンに明け暮れ、まさにバブルの絶頂期に大学を卒業し、深く考えることなくTI社に就職しました。大阪営業所から米国本社ダラスに転勤し、3年後の2000年に東京へ帰国。それから2014年6月にNVIDIA社へ転職するまで、様々なリーダーのポジションを経験することになります。その間に夜間と週末を利用し、首都大学東京大学院でMBAを取得。その後も博士後期課程で経営を3年間学びました(単位所得退学)。10代後半から楽しんでいたそのサーフィンは40歳まで続けることになったのですが、全く上達せず、子供が生まれると同時に卒業しました。現在の趣味はオートバイ(ハーレー Fatboy)、ジョギング、読書、そして子育てです…が、現在のところ私の週末の90%が子育かな。
このインタビュー中に、渡邊さんから、私の今後の夢について質問を受けました。そこで口ごもってしまい、はっきりと答えることができなかった自分に正直とても驚きました。リーダーが夢を語れないのは恥ずかしいことです。でも、実は5年先まで詳細な夢年表を作っていて毎年更新しているのです。しかしながら、多分それはあくまで「目標」であって内容として「夢」にまで至ってない。だから聞かれた時にハッキリと答える事が出来なかったのだと思います。後3年弱で50歳を迎えます。その節目に向かってしっかりと夢を蓄えて行きます。家族、会社の仲間、友人達と。

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