Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.024 由佐美加子さん

2016/01/19 (火)
このエントリーをはてなブックマークに追加

由佐美加子さん

合同会社CCC
パートナー

個人と組織、社会の変容に役立つ実践的なソーシャルテクノロジーといわれる手法や枠組み、プログラムを様々な場を通して提供する合同会社CCCを創業した由佐さん。個人や企業向けに組織開発やリーダーシップ開発、チームビルディングなどの講座やファシリテーションを行う一方、「U理論」の訳者としても知られています。今回は、人と組織の変容を通して既存の社会システムに限界を感じ、新しい流れを創り出す取り組みなどについて、お話しいただきました。

リーダーに必要なことはDoingよりもBeing

私は、大学院を出て野村総研に入社しました。コンサルティングの過程で基本的なビジネススキルを身につけることはできましたが、実務経験がないのに会社の社章をつけただけで大企業の偉い方々に会えることにどこか「虚像だな」と違和感を覚え、「会社ではなく自分の名前で仕事ができるようになりたい。実業を経験したい」と思うようになりました。

そんなとき、「会社のためにではなく、自分や社会のために働かないか?」と書かれたリクルートの新聞に掲載された求人広告を目にしました。「会社のために働かなくていいって言い切る会社ってどんな会社?!」と思い、深く考えず何かの流れにのるように転職していました。リクルートの社員は、バリバリ働きますが、「世の中を良くしたい」というパッションのある人がとても多い。自分たちの成功だけでなく、社会の幸せとか社会をよりよくするために仕事をしているという誇りを持って働く人が多かったので、とても刺激的で楽しかったです。

リクルートに入ってから、上海でジョイントベンチャーを設立する案件がありました。何ヶ月も単身で現地にいて、事業化に向けて奔走しましたが、その案件は上の判断で打ち切りになりました。それが原因でやる気を喪失。燃え尽き症候群のようになり、仕事に空虚さを覚えるようになりました。何にも身が入らない状態でもう「辞めようかな?」と考えていたとき、「人事部にきて人材開発の仕事をしないか?」とお声がけいただきました。

由佐さん②

それまでに教育の仕事の経験もなく、人についてなんて深く考えたこともない。あまりにも何も知らないので、研修といわれるものを体験していろんな話を聞きにいきました。結論としては、とにかく当時の研修といわれるものは単発的なものが多く、「次世代のリーダーを輩出しろ」という期待に応えられる感じはしませんでした。そんなときにピーター・センゲの「学習する組織」という分野があることを知り、「これからのリーダーはやること(Doing)よりも、あり方(Being)が大事」という考えに触れたときに何か稲妻が走った感覚になり、「ここに何か探していたものがある!」と思いました。

それまでは、スキルや知識を身につけることが能力を高めることで成果を出す上で重要という考え方が人材開発の分野では一般的でした。でも、本当に人が変化するのは、内面に変化が起こったときなのだと確信するようになっていきました。リクルートは自由にやらせてくれるところだったので、内省と対話、自己探求をベースにした半年間のプログラムをつくり、社内でいろんな抵抗にあいながらも導入しました。

現場でいろんな試行錯誤をしていくうちに、次第に体験で掴んでいるものを体系的に学びたいと思うようになり、当時最先端の組織開発の修士課程のプログラムを提供していた米国のケースウェスタンリザーブ大学経営大学院にリクルートで働きながら通わせてもらうことにしました。

その頃、MITのオットー・シャーマー博士が提唱している「U理論」に出逢い、ビジネス書とも学術書ともつかない分厚すぎる本を世に出すために、睡眠時間を削って作業をし、2010年に日本語の出版にこぎ着けました。

E69BB8E7B18DUE79086E8AB96 (1)

無自覚な思い込みが不都合な現実をつくる

出産を経て、外資系企業の人事部で採用や人事・組織開発の仕事をしていましたが、一つの企業の枠に囚われない広い範囲で仕事をしたいと独立を考えるようになりました。社会や学校などソーシャルな変化は、個人の変容から始まります。会社組織を出ることへの恐れがありましたが、個人が自由に生きることをテーマにしていたので、「恐れというものの実態がどういうものなのか、自分で人体実験するのもいいかも」と思い、独立しました。

当初は、個人事業主として企業向けに組織開発のコンサルティングや研修プログラムを提供していました。40歳のとき、フィリピンのセブ島のラーニングジャーニーと呼ばれるプログラムに参加し、貧困地域に住む人々と共に過ごし、その人たちが自分につながり、目覚めていく現実を見て、「自分だけでこの仕事をやっていてもダメだ。もっとこういうことを世にもたらせる人たちを増やしていきたい。それには自分の知っていることを、もっと伝えていかないといけない」と思い、帰ってきて自分が分かち合えることを共有する今の社名になっているCCC(Co-Creation Creators)という15人ほどのメンバーからなるコミュニティーを作り、1年間合宿をしたり登山したりと一緒に様々な体験を分かち合いました。

そんな人の変容のプロセスで鍵となるものにメンタルモデルというものがあります。メンタルモデルとは、自分の思い込みとなっている無自覚な信念のことで、通常、まだ言語が確立していない幼少期の痛みを伴う体験を通してできています。「自分は価値がない」「一人ぼっちだ」「愛されない」などなど。そういう経験は誰しもがするものですが、感じている悲しみや痛みから切り離すために、「その体験はこうだからそうなってしまったのだ」という理由づけを無自覚な信念として刻みこみます。

合宿

その自分でそんなことがあるとも知らない信念が、「もう同じ痛みを味わいたくない」と、痛みを回避する行動へ駆り立てていきます。価値がないと思われないように努力したり、周囲の期待に応える。ただ、それで一瞬満たせたとしても、結局また次の期待がやってきて、どんなに努力してもこれで十分だと思える充足は得られません。結局、その無自覚な信念から自分が望まない現実を生み出してしまうのです。

私の例でいうと、「ひとりぼっち」というメンタルモデルがありました。2歳のとき、母の入院に伴って祖父母に預けられ、その痛みを消すため、「人はいつでも自分から離れていくものだ。一人で生きていかなければ」という信念となっていました。社会人となり、いろんな望まない現実を体験する中で、限界が来て発見したメンタルモデルです。自分の人生が初めてこの信念がすべて創り出していたことがわかったとき、衝撃を受けました。

このように人は、小さい頃に経験した痛みを回避するための行動をずっと無自覚に続けてしまいます。でも、不安や恐れから駆り立てられてどんなに頑張っても幸せは得られません。それよりも、そういう無自覚な思い込みがあることを知る。そのような信念を持つ自分を受け入れる。そして内的に切り離していたものを取り戻すことで、無意識ではなく、自分の意思から選択できるようになることが人の進化として最も大切だと思っています。

アジト

whatやhowではなくwhoが大事

会社を創るきっかけになったのは、現CCCのパートナーの一人でCCCがコミュニティーだったときの仲間から、「この世界観を世の中に拡げていくために会社にしないか?」と言われたことがきっかけです。それまでは個人事業主で、自分一人で好き勝手に仕事をしていました。気楽な一方で、一人でやることの物足りなさも感じていました。「同じ気持ちを持つ仲間と一緒にやるのもいいかもしれない」と思い、3人のパートナーと共同で合同会社CCCを設立しました。

CCCは、Co-Creation Creatorsの略称で、切り離されたエゴの生存ではなく、大いなる源の一部として大きな流れと共創して現実を創造する生き方を体現する新しい現実を共に創造する人たち、という意味です。外的環境に必死に適合して生きるのではなく、自分の内側の真実につながり、その源から自己表現して生きる。それこそが、自分の人生をCreateして生きる、望む現実を自らがCo-Creation(共創造)して生きる、これからの人間のあり方だと考えています。

CCC

当社では、個人向けの一般公開講座も数多く提供していますが、重視しているのは、DoingよりもBeing。違う言い方をすると、what(何をするのか)やhow(どうやるのか)よりもwho(誰としてそれをやるのか)を創り出すことです。これまでのリーダーシップ教育では、「何をするか?」という行動(what)や「どれをどのようにやるのか?」というやり方(how)に焦点が当てられてきました。でも、それを知ってもなかなか現実がかわらないのは、リーダーの内面で起きていることに起因しています。

また、メンタルモデルのところでもお話ししましたが、幼少期の体験はその後の人生に大きな影響を与えるため、とても大切です。それなのに、学校の教育システムは長い間大きく変わっていないし、簡単に変わりそうもない。そこで、親の意識、つまり家庭から変わる方が早いと考え、合同会社ファミリーコンパスを設立しました。ここでは、家族、親子の関係性の中で生きる力を育む具体的な手法やコミュニケーションの実践の仕方を、公開ワークショップを通じて提供しています。

合宿2

生命を感じるものを大切にしていきたい

企業向けのプログラムやコンサルティングを提供していると、最近、企業の組織はいろんな共通した課題を抱えていると感じます。これまでいいと思ってやってきたやり方が通用しなくなり、「どうしたらいいかわからない」と戸惑っている企業が増えています。これまでは、指示・命令をして人を動かすカリスマ型リーダーがリーダーのロールモデルでしたが、今は全く通用しません。それよりも人の不安や恐れを受けとめ、人に寄り添える共感型リーダーでないと多様化した職場で人はついてこない。これまで切り捨てられてきた内面の要素を取り戻すことが必要だと思います。

私は、生命を感じることを大切にしていきたいです。この世界はすべて生命が調和して機能している。もし人間がその大きな生命としての営みから外れたら、いずれ、どこかで淘汰されると思っています。企業でいえば、個人成果主義が導入されてから、評価で脅して、恐れから駆り立てるマネジメント手法がまだ主流です。個人の存在価値を認めない、あるいは存在価値は成果と連動されていて、存在価値を他者から認められたいと思う個人は緊張や恐れの中で仕事をしています。その環境下にいることが持続的に成果を引き出せるはずはありません。これまでの資本主義的な考え、個人の幸せを犠牲にして企業の収益を優先する考えは、これからの時代はもたないと思います。

shift

それよりも、生命が最大限輝けるように、人間らしくイキイキと生きられるようなシステムに移行していけるように、それがどうしたら実践できるのかという道筋をつくっていきたい。今、優秀な人の多くは大企業に勤めています。でも、大企業では、昔ながらの古いシステムで運営されていて、若くて優秀な人が古いシステムの維持のために働かされている気がします。そうではなく、将来のシステムをつくる方に参戦してくれないかなと思っています。

当社では、「地球に生きる個人、組織、社会全体が、本来の生命力につながり、一人ひとりが自らの人生を拓き、共に望む現実を創造するうねりを生み出すこと」をビジョンに掲げています。このようなビジョンを実現して、「人間は、これでこの地球上で大丈夫だよね」と思って死にたい。分断と恐れから人を突き動かしている社会システムを終わらせて、「人は可能性に溢れていてどんな現実をも創造できる」という未来への明るい展望を見届けて生涯を終えたいと思っています。誰にどう見られるかを気にすることなく、人間らしく、自分らしく自然体で生きるのが普通だよねという世界を夢見ています。

由佐さん3

 

プロフィール

幼少期からヨーロッパ、アジア、米国で育ち、米国大学卒業後、国際基督教大学(ICU)修士課程を経て ㈱野村総合研究所入社。その後㈱リクルートに転職し、事業企画職を経て人事部に異動。次世代リーダーのあるべき姿を模索する中でMIT上級講師ピーター・センゲ氏が提唱する「学習する組織」と出会う。以降、ソーシャルテクノロジーと呼ばれる最先端の人と組織の覚醒と進化の手法を探求し続ける。2005年Appreciative Inquiry(AI)を生み出したデビッド・クーパライダー教授が教える米国ケースウェスタンリザーブ大学経営大学院で組織開発修士号を最高成績で修了。出産を経て2006年よりグローバル企業の人事部マネジャーとして人材・組織開発、新卒採用・育成を担う。2011年に独立、3年後に合同会社CCCを現パートナーと共に設立。2015年よりCCCの活動に加えて新しいパラダイムの子育てとその実践の仕方を共有する活動を合同会社ファミリーコンパスを通して展開する。オットー・シャーマー著「U理論」訳者。

このエントリーをはてなブックマークに追加

ピックアップインタビュー

2017/05/10 (水) vol.055 北原照久さん

株式会社トーイズ 代表取締役

2017/04/20 (木) vol.054 山崎大地さん

株式会社ASTRAX 代表取締役社長 民間宇宙飛行士

2017/02/15 (水) vol.052 小城武彦さん

株式会社日本人材機構 代表取締役社長

⇑ PAGE TOP