Leaders1000 リーダーが語るの人生の軌跡

vol.014 清水昌浩さん

2015/11/05 (木)
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清水昌浩さん

マイシェフ株式会社
代表取締役社長

シェフの出張サービスを手掛ける「マイシェフ株式会社」を創業された清水さん。シェフがつくる本格的な料理をお値打ち価格で自宅でいただける点が受け、育児中のママを中心に大人気のサービスになっています。また、テレビや新聞にも多数取り上げられメディアからの注目度も高まっています。今回は、働き方や起業のことを中心にお聞きしました。

週3日ずつ2社を掛け持ちする働き方

私は大学卒業後、大手コンサルティング会社であるアクセンチュアに就職しました。1年目から仕事は過酷で、朝から午前2時くらいまで働くことを4ヶ月続けることもありました。そのときは心身ともに疲れ果てましたが、「集中してやるときはこれくらいやらないとダメ」ということを叩きこまれました。このときの経験は、その後の仕事にも役立っています。

その後、自分の裁量で新規事業の立ち上げをしたいとベンチャー企業に転職しましたが、徐々に「起業したい」との想いが強くなっていきました。ただ、起業をしても、すぐに売上が立つわけではありません。そこで、ある考えを思いつきました。それは、週の半分は会社に勤めて収入を上げる。そして半分は起業した会社で働くというもの。こうすれば、起業後に一定期間キャッシュが入らなくても、リスクを減らすことができる。そう考えました。

そして、月火水はGINZAMARKETSというシリコンバレーの会社、木金土は現職のマイシェフで働く日々が始まりました。ただ、2社で同時に働くので当然ながら時間が足りません。そこで仕事のスタイルを抜本的に変えることにしました。いろいろなことをしましたが、一番効果があったのは「やった方がいいというレベルの仕事を一切やめたこと」です。

例えば、打合せの回数を大幅に減らしたり、ご挨拶の訪問はすべて禁止にしました。これにより、顧客との関係が悪くなるといった懸念もあがりましたが、やるべきことに集中することで、むしろ関係は良くなることもありました。また、他社から「アライアンスをしませんか?」との提案も、時間をとって検討することをやめ、その場で判断です。やるか、やらないか。検討が必要そうな場合は、その場でやらないと判断しました。「検討する」というのはくせ者で、実は何も進展していないのに、大幅に時間を取られ、なんだか仕事をした気になってしまいますから。他社にアライアンスの案を持ってきてもらい、それを判断するという方針にしました。

このように意識的に意思決定や判断の仕方を変えたことで、やるべきことに集中して時間を使うことができるようになり、一度に2社を掛け持ちするという働き方を実現することができました。

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「雇われてはいけない。雇う側になりなさい」

私は昔から起業志向だったわけではありません。ただ、親類の中に事業を経営している方が大勢いて、その内の一人から「雇われてはいけない。雇う側になりなさい」と大学生の頃から言われ続けてきました。大学時代は起業なんて全般考えていませんでしたが今は起業しています。意識していたわけではありませんが、親類の方の声がずっと頭の片隅に残っていたのかもしれません。

3年前に創業したマイシェフは、シェフが家庭に出張して食事をつくるサービスです。お客さまから注文をいただいた担当シェフが自宅に出張し、お値打ち価格で本格的で美味しい料理をつくるというものです。お陰様で今は多くのお客さまに利用いただいていますが、実は起業して間もない頃は、お客さまが「なぜ当社のサービスをご利用されるのか?」がわからずに苦労しました。

清水③

このサービスで想定していた主な顧客は「育児中のお母さん」です。でも私は母親でもなければ、子供もいません。なので、1ミリも肌感覚がわからないのです。もちろん、お客さまの利便性が高まると考えたサービスですが、「なんで注文したんだろう?」「いいと言ってくれるけど、どこがいいんだろう?」とわからないことだらけでした。「いいね」と言ってくれても確信が持てないので素直に喜べない。そこで、気になることをお客様に直接聞いていきました。

例えば、「子供がいても個室のあるレストランの方が、当社のサービスよりもいいんじゃないですか?」と。すると、「いや、子供が走り回って個室から出ちゃうんですよね」など自分では想像もしていなかった答えが返ってきました。

このような、とてもヒアリングとは言えないような「雑談」をお客さまとすることで少しずつ顧客ニーズをつかんでいきました。ただ、それまでの間は、わからないことだらけで本当に苦労しました。顧客のことも知らない、料理業界のこともBtoC向けのサービスも初めてでわからない。ないもの尽くしの期間が一番つらかったです。

でも、大変な中でも乗り越えられた要因は二つあります。一つは、「やると決めていたこと」。「自分は起業する」と決めていたので、やめるという選択肢はありませんでした。もう一つは、「未来があると感じていたこと」。自分には育児の経験はありませんでしたが、育児中の女性が大変そうなことはわかっていました。その一方で、企業側でまだ十分なサービス提供ができていない。仮に気の利いたサービスを提供できれば受け入れてくれる。そのような未来が来ることを確信していました。その二つが困難を乗り越える原動力となりました。

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新しいものを生み出し後世に残すことが使命

現在は、二足のわらじをはく状態を卒業し、マイシェフ一本でビジネスを展開しています。以前二つの仕事をしていた時期に、マイシェフのビジネスの成長のために、あるベンチャー企業の経営者に相談に行きました。すると、その方から「君はいつからマイシェフ100%をやるんだい?」と言われました。そして、「ここにカレンダーがあるから日付を書きなさい。書けないならやめなさい」とも言われました。その言葉を受け日付を書き入れましたが、先に日付を決めることの重要性を教えられました。

最近、仕事をしていて「自己効用感」が大事だということを感じています。自己効用感とは、自分がやっていることが誰のためにどう役に立っているか実感でき、自分は意味のあることしているという感覚です。例えば、料理人の場合、「自分がつくった料理を食べたお客さまに喜んでもらいたい」というもの。ただ、この意識を実感できている料理人は多くない。それよりも、「仕事だから料理をしている」という意識で働いている人が多い、と聞いたことがあります。

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また、それと少し関係するかもしれませんが、私は「生きた証として何かを世に残したい」と考えて仕事をしています。例えば、今は普通に道路があり橋があります。また、日本人は嘘をつかない、信用ができる、と思っている人が海外に多いと聞きます。このようなことは、当たり前にあるように感じてしまいますが、実は先人たちの長年にわたる頑張りで成り立っています。そう考えると、後世の人たちに何かを残すことが自分たちの使命ではないでしょうか。

特に高等教育を受けた人たちこそ、過去には存在しなかった、新しいものを後世に残す役割を担うべきだと考えています。それは新事業でも構わないし、新しい国に進出することかもしれません。ただ、例えばMBAを出た人の中に、「年収を何%アップさせることが目標」という人たちがいます。そういう話を聞くと、率直に寂しくなります。そういう人たちは「ノブレスオブリージュ」、つまり「高貴なるものが負うべき義務」を全く果たしていないわけですから。

私は現在はマイシェフという新しいサービスを通して多くの方に喜んでもらうことに全力で取り組んでいます。ただ、将来的にはまた別のサービスをつくり出し、ノブレスオブリージュを果たしていきたいと考えています。

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プロフィール

名古屋大学法学部卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。ITベンチャーの株式会社デジタルフォレストを経て、シリコンバレーのスタートアップGINZAMARKETS社の日本カントリーマネージャーとして参画。並行して、2012年にマイシェフ株式会社を創業。マイシェフは東京、神奈川、埼玉、千葉で提供しており、育児中のママ・夫婦の他、高齢な方や障害をお持ちの方がいる家族など外出が大変・困難な方を中心にご利用いただいています。

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